1. 出会い

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1. 出会い

 右も左も分からない山中を、御空舞(みそらまい)は彷徨っていた。  どこに向かって進んで行けば、麓に出られるのか。  どのくらい歩けば、たどり着くのか。  何の情報もない。  気が焦るあまり、その場に留まって救援を待つことができない。  とにかく、行けるところまで行こうと歩く。  空を見上げると、エアプレーンが飛んでいく。  かなりの低空飛行。 「もしかして、救助!?」  舞は、必死にハンドバッグを振り回して存在をアピールした。 「ここよー! 助けてえ!」  軽飛行機を目で追うと、いきなりきりもみ状態となって高度を下げた。 「うわ! 落ちた!?」  心配したが、すぐ平衡を取り戻して飛び去って行った。 「ビックリした。でも、落下しないで良かった」  自分のことを忘れて安心したが、この状況は変わらない。 「救助ではなかったのね」  山頂に登れば、地形の全体が見えるかもしれない。  さっきの軽飛行機が戻ってきた時、気付いてもらえるかもしれない。  舞は、上を目指して歩き出した。 「ハアハア……、ゼイゼイ……」  傾く陽射しに追われる。  太陽と競争して敵うはずもなく、暗闇が迫る。 「急な斜面をまっすぐ上がれば、時間短縮になるわね」  斜面に足を掛けて登ろうとしたその時、滑らせて転がり落ちた。 「キャアア!」  途中の木に引っ掛かって止まったが、ヒールは壊れ、足を挫いた。 「アイタタタ……」  足に血がにじんでいる。  それでなくても、歩き疲れてヘトヘト。 「もう、無理……」  その場にうずくまった。  このまま、野宿を覚悟しなければならないのだろうか。  山歩きの準備などしていない。  ワンピースにハイヒール、手にはハンドバッグ。  朝に家を出たときは、いつも通りに街中デートのつもりだったのだから。  どうして、こんな目に遭わなければならないのだろう。 「助けは来てくれるのかな……」  泣きたくなった。  思い返せばほんの数時間前のこと。  舞は、恋人の下田咲夜(しもださくや)と、ドライブを楽しんでいた。  顔も良くて、有名大学に通っている自慢の彼氏。  そんな咲夜から、情熱的に口説かれたことが嬉しくて付き合いだした。  車で高校まで迎えに来てくれることも、友達に自慢できる。  誰に紹介しても羨ましがられる完璧な恋人だったのに、山中に連れてこられて車から放り出されたことに混乱している。  周囲は鬱蒼と生い茂り、地面はジメジメして、得体のしれない真っ赤なキノコが生えている。 「夜になったら冷え込むかな……」  心細さと恐怖で震えた。  ハンドバッグからケイタイを取り出してみるが、圏外。  さらに、このケイタイで咲夜がゲームをしたから、バッテリーも残りわずかだ。 「なんで、人のを使うんだろ」 『舞~。ケイタイ貸して~』  いつも、鼻にかかる甘えた声で人のものを使う。  時には、『浮気チェック!』と称して、勝手にメールや写真を見る。  それでも、恋人ってそんなものかと思って文句は言わなかった。 「そんなに愛してくれた私を、どうしてこんなところに置き去りにしたの? よく、分からない……」  いろんなことが理解できず、心の整理がつかない。  膝を抱えてうずくまった。 “ドドド……、ブルルルル……”  バイクのエンジン音が聴こえてきた。  普段なら見向きもしないだろうが、今は非常事態。急いで立ち上がると、バッグを掴んで頭の上で振り回した。 「助けてえ!!!」  バイクはこちらに向かっていた。 「良かった!」  足の痛みを我慢して、バイクの元へと急いだ。バイクにはパイロットゴーグルの少年が乗っていた。 「助けて!」  少年は、必死に駆け寄る舞の惨状にひるんだのか咄嗟に逃げようとした。  ワンピースは汚れていて、靴は履いていない。ストッキングは破れて擦りむいた血がついている。誰もいない山中で、こんな女に追いすがられたら逃げ出したくなるのは当然だろう。しかし、ここで逃げられたら、もう、あとがない。 「待って! 助けて! 遭難したの!」  さっきまでの心細さと恐怖。助かるかもしれないという安堵。全てを逃すかもしれない焦り。それらにより、とうとう、堪えていた涙腺が崩壊した。 「ウワアアア!」 「分かったから。泣かなくていいから」  号泣しながらの訴えが功を奏したようで、少年が逃げずに話を聞いてくれた。  優しそうで悪い人には見えない。  舞は安心して名乗った。 「私は、御空舞、高1の16歳」 「僕は、天際暁(てんさいあかつき)。17歳だ」  童顔だが、舞より年上だった。 「こんなところでどうしたの?」 「彼氏に置いてかれたの……」 「どうして?」 「分かんない。ドライブしていたら、急に車を停めて、ここで景色を見ようよっていうから外に出ただけ。すると、車を発進させて自分だけ行っちゃった」  本当に理由が分からなかった。直前まで試験の話とか部活の話とか、いつもの会話をしていただけなのに。  咲夜はかなり嫉妬深いから、他の男子の話など一切しないし、した覚えもない。怒ることは考えられない。  それに、怒って降ろされたわけじゃない。いつもの笑顔だった。 『ちょっと降りてよ』 『ここで?』 『そう。景色を見ようよ』  何もない山の中で変とは思ったけど、咲夜の笑顔に騙されて何の疑いもなく車を降りた。  車はそのまま走り去ったのだ。  混乱したまま立ちつくしたが、戻ってくるだろうと信じて待った。  でも、戻ってこなかった。 「足を挫いちゃって歩けないmp。ケイタイが使えるところまで連れていってもらえれば、その後は自力で帰るから、そこまで連れていって欲しいの」  頭を下げてお願いする。  暁は、「とにかく、暗くなる前に、山を下りなきゃな。後ろに乗りなよ」と、後部シートを勧めてくれた。 「ありがとう。助かります」  舞がバイクにまたがると、バイクは山の斜面を凄い勢いで下りた。  これが、舞と暁の出会いであった。  山道に出て、バイクはどこかに向かってまっすぐ走っている。  どこにいくのか少しだけ不安を感じた舞は暁に聞いた。 「ねえ、どこまで行くの?」 「一旦、家に寄っていこう。そこで体についた汚れを落としていくといいよ」 「近いの?」 「すぐそこ」  すぐそこと言いながら、山一つ越えて連れていかれた。 「ついたよ」 「ここって……」  民家を想像していたが見当たらない。  目の前に建物はあるがプレハブの巨大ガレージ。要するに倉庫だ。  バイクを下りてヘルメットを外した暁は、中に入りなよと手招きしながら歩いていったので、舞も恐る恐るついていく。 「ねえ、ここ、どこ?」 「ここは、僕のハンガー」 「ハンガーって、何?」 「ハンガーは、格納庫って意味だよ」  壁一面を開閉できるように大きな扉がついているが、それではなく、横についている人間用の扉を開けた。  中に入ると、そこあるものを見て舞は驚いた。  一人用のエアプレーンが、雄々しく鎮座している。  シャープなフォルム。  真っ赤な機体には『AKATSUKI』と書かれた特徴的なデザイン。  どこかで見覚えがある。 「あ、だから格納庫なのか。あれ? これって……、つい、さっき、見たような?」 「ああ、そうだよ。君が山で見たのが、これ。僕の愛機『AKATSUKI』号。さっきのも、僕が操縦していたんだ」 「え? あなたがこれを? 信じられない。だって、私と同じぐらいの年なのに。そんなに若くて飛行機を操縦できるの?」 「できるよ」  暁は、平然と答えた。  先ほどのエアプレーンは、きりもみ状態から短時間で体制を立て直すという、アクロバティックな動きをしていた。  自信満々で言われても、とても信じられない。 「ウソでしょ?」 「いや、ホント」 「さっき、墜落しそうになっていたでしょ?」 「あれは、わざと。アクロバットをしていたんだ」 「あれ、そうだったの?」 「あの最中に、山で助けを求めている君に気付いて、ここに戻ってからバイクで行ったんだ」 「え? え? え? じゃ、知っていて、わざわざ、迎えに来てくれたってこと?」   偶然通りかかったのだと思い込んでいたから、その事実にも驚いた。  考えてみれば、あの山に、モトクロス用じゃないバイクで斜面を登ってくるわけがない。 「あの高さから、あの速度と激しい動きで飛行機から私が見えていたというの?」 「見えるよ。地上の風景は全部見える。毎日飛んでいるから、場所の特定も出来る」  あれで気付いて助けに来てくれたことに、感激せずにはいられない。 「ありがとう! あなたは、命の恩人よ!」  暁への信頼感が大きくなった。  対照的に、咲夜に対する気持ちが急激に色あせていく。  あんなに大好きだったのに、気持ちは氷点下まで冷めている。 (帰ったら、別れを告げよう……)  心の中では、すでに別離を決めていた。  手元のケイタイは、とっくにバッテリー切れとなりただの荷物となっている。  こんな目に遭わせた咲夜のことを考えると、涙がにじみ出る。 (このまま、一生音信不通でいい)  そんなことまで考えた。  エアプレーンは、前面に3枚のブレード(羽)。主翼の端は、垂直に立っている。  乗って空を飛んでみたいが、操縦席が一人用シートなので無理そうだ。 「凄く、軽そうね」 「レース用だからね。でも、機体は丈夫さ。レースでは、傾いた体制から素早く垂直飛行に切り替える必要があるのと、スピードが上がるとGが上がるから、それを耐えるための強化をしている」  急に、饒舌になった。  でも、生き生きと話す暁に好感が持てる。 「Gって、何?」 「重力加速度のこと。Gに耐えられないと、空中分解してしまう。機体の安全性を考慮して、なおかつ、スピードアップするように作らないとならない」 「へえー」  今まであった遠慮がなくなって、とても打ち解けた感じになった。 “グウ……”  お腹が鳴ったので、慌てて押さえた。 「お腹、空いていたんだね」  暁にお腹の音を聴かれてしまった。  とても恥ずかしくて言い訳した。 「朝から何も食べていなかったから……」  水分も取っていない。喉もカラカラだ。 「この辺に、コンビニとかある?」 「コンビニは、ないなあ。山の中だから」  ここまできた道には食堂もなかった。  暁は、思案した。 「そうだ。今朝作った鍋が余っているから、それで良ければ食べていってよ」 「お鍋……。いただこうかな」  空腹とのどの渇きが限界な舞は、暁の言葉に甘えてごちそうになることにした。 「こっちにおいでよ」  格納庫の奥に休憩室がある。  小さな台所、トイレ、シャワー室がついている。  コンロの上に、土鍋があった。 「椅子に座って待っていて。すぐ温め直すから」  暁は、土鍋をガスコンロに置くと点火した。  寒々とした山の中で彷徨ったからか、青く燃えるガスの火を見て、ようやく人心地が付いた気がする。  やがて、土鍋から湯気が立ちあがりグツグツと煮える音が聞こえてくる。 「温まったよ」  暁が火を止めると、お玉で掬ってお椀に入れた。  それを、舞に手渡した。 「はい。口に合うかどうか心配だけど」 「ありがとう」  熱々のお椀を慎重に受け取ると、具を眺める。  いろんな種類のキノコが入っている。  中には、赤くて白いイボが水玉模様になっているキノコも入っている。 「これ、何の汁?」 「キノコ汁」 「誰が採ったの?」 「僕が山で採ってきた」  大丈夫なのか心配になった。  顔色が変わった舞を見て、暁は安心させようと、棚から『キノコ図鑑』を取って見せた。 「心配しなくていい。キノコの鑑定には自信があるんだ。これで確認もしている」 「ヒエ!」  図鑑頼りと聞いて、逆に不安が増した。  山で見かけた、いかにも毒キノコだと思ったキノコも入っているので、箸でつまんで見せた。 「この赤いキノコって、毒キノコじゃないの?」 「それは、ベニテングダケと言って、とっても旨いんだよ。何ヶ月も塩漬けにすることで、毒は抜ける。騙されたと思って食べてみてよ」  かつてない衝撃を受けた。 「やっぱり、毒キノコじゃん!」 「そうだけど、この辺りでは、普通に食べられているんだ。ベニテングダケに多く含まれるイボテン酸は、旨味成分であるグルタミン酸の、なんと10倍もの旨味がある。これを味わわないなんて、もったいない。僕は今朝も食べたけど、なんともないよ」  暁は、ズルズルと汁をすすった。  とても旨そうに見える。 「本当に、食べても大丈夫?」 「ああ。ベニテングダケで死ぬことはないから」  そこまでいうのならと、少量を齧ってみる。  今まで食べたことのない、ふくいくたる旨味が舌の上を転がる。  汁を飲めば、キノコエキスがたっぷり入った旨味の塊が乾いた体に浸み込んでいく。  胃袋が美味しいもので満たされれば、格別な幸福感に満たされる。 「あー、美味しい……。幸せ……」  暁は、嬉しそうな顔になった。 「だろ? ヨーロッパでは、『幸せキノコ』と、呼ばれているんだよ」 「うん。その通りね」  最初の(おそれ)はどこへやら。  すっかり気に入って、全て食べて、一滴残さず飲み干した。  土鍋の中が空になった。 「美味しかった。ご馳走様でした」  ふと、疑問に思う。 (山で採ったキノコを長期保存しているということは、ここに通年住んでいるのだろうか?)  ここは家ではない。住人の気配がない。 (こんな山奥に、まだ高校生の少年が一人で暮らしているの?)  しかも、こんな簡素な設備で。  食後のお茶を淹れてくれたのだが、どうみても普通のお茶っぱじゃない。 「これ、なんのお茶?」 「これはクロモジ茶。さっき山から摘んできたんだ」  爽やかな香りでリラックスする。  味もさっぱりしている。 「おいしい。こんなお茶があるのね」 「摘んだ葉を揉んでお湯をかけるだけ。手軽にお茶にできるから重宝しているんだ」  山暮らしの知恵に富んでいる。 「ここに一人で住んでいるの?」 「住んでいるというか……、飛行機を作りながら寝泊りしているだけだよ」  住まいより、もっと、興味深いことを口にした。 「飛行機を作る?」  完全に聞き間違えか言い間違えだと考えた。 「今、ここで飛行機を作るって、聞こえたけど?」 「言ったよ」 (何を言っているんだろう? プラモデルのこと?)  室内に、プラモデルはないが、木製の小さな飛行機がいくつも置いてある。 「これのこと? 暁が作ったの? 器用ね」  出来栄えに感心していると、暁が「違う」と、言った。 「それも僕の手作りだけど、そのことじゃない」  暁は、部屋越しに見える愛機を指した。 「あれ、僕の手作り」 「え?」  飛行機を手作りするなんて、聞いたことない。 「ウソでしょ。飛行機を自分で作るなんて」  からかっているのかなと思った。  咲夜もよく大ぼらを吹いては、ほんろうされる舞を笑った。 「エンジンとプロペラだけはレース規定で指定されているけど、それ以外は自分でデザインして作るんだ」 「本当に? 専門業者にオーダーで作ってもらうんじゃなくて?」 「ああ。そうだよ」  まさか、この少年の手作りとは思わなかった。  それで、先ほど見たような空中飛行ができることに驚嘆する。  暁は、一番近くに置いてあったモックアップを手に取った。 「これが、『AKATSUKI』号のモックアップ」  大きさが違うだけで、本物と同形。 「これって、おもちゃよね」 「これは、誰でもイメージし易いように作っただけ。本来のモックアップは実寸大。でも、場所を取るし、木材を集めるのも大変。だから、今ではデジタルで作られるんだ。デジタル・モックアップは、パソコンに入っている」  暁の丁寧な説明に感心した。  比べたくもないのだけれど、咲夜だったら、説明前にこちらの疑問にキレて終わっている。 「飛行機って、どうやって作るの?」 「あっちで説明しようか」  二人で台所を出ると、暁がハンガー内を案内してくれた。 「まず、こんな木型を削って作る」  床に置いてある大きな木製の型を見せた。  中がくりぬかれてカーブしている。翼の一部のようだ。 「ここに、カーボンを流しこむ。型を外せばパーツが出来る。一つ一つ、作って組み立てていくんだ」 「うわあ……、面倒……」  思わず、あきれ声がでた。 「面倒じゃないよ」  暁は屈託なく笑った。 「どうして、自分で作るの?」 「自分の理想とする飛行機が売っていないからさ。欲しければ作るしかない」 「凄いんだね……」  咲夜もよく愛車自慢をしていたが、結局、買ったもの。スケールが違いすぎる。 「手間と時間が掛かって大変でしょう」 「作ることは楽しいから大変じゃない。没頭すると時間を忘れてしまって、気が付いたら翌朝になっていることも多くて。それで、ついつい、ここに泊まり込んでしまうんだ」 「じゃあ、ちゃんとした家は他にあるのね。家族もそこにいるの?」 「両親と姉がそっちに住んでいる」  お姉さんがいる感じ、分かる。 「一人でここに寝泊まりして、心配されない?」 「全然心配していない。僕が何をしているかよく知っているし。たまーに、様子見に来るけど、来ても相手にする暇がない。手伝われても邪魔なだけだから、断っている。そう言えば、最近は、とんと来なくなったなあ」  暁は、家族のことを全く気にしていないようだ。 「理解があるのね」  あれだけの飛行テクニックを見せられたら、家族も応援する気になるのだろう。  しかし、飛行機を作るにはいくら掛かるのだろう?  家族に出してもらっているのだろうか? 「ねえ、変なことを聞いていい?」 「何?」 「お金、掛かるでしょ? 資金はどうしているの?」 「資金はスポンサーから調達する。製作費、レース参加費。いくらお金があっても足りない」 「スポンサーがいるんだ」  スポンサーがつくほどの実力の持ち主ということだ。 「良かったら、今度、『AKATSUKI』号が飛ぶところを見に来ない?」 「いいの?」 「ああ。張り合いが出るからギャラリーは大歓迎だ」 「大空を自由自在に飛ぶって、最高に気持ちよさそう」  見ているだけでも楽しそうなので、練習飛行を見せてもらう約束をした。  傷の手当てをしてもらい、ヒールの片方はかかとが取れているから、もう片方を暁が工具で外してくれた。  これで歩ける。  バイクで送ってもらったローカル線の無人駅。  ここがどれだけ都会から離れているかよくわかる。  自宅のある駅まで、長い時間、電車に揺られなければならないようだ。 「こんなところまで連れてきて、置いていっちゃうんだもんな……」  電車に揺られながら、ますます咲夜に腹が立った。  無事に帰宅すると、ケイタイを充電する。  たくさんのメールと着信が、咲夜から届いていたことに気付いた。  何が書いてあるのかとメールを読んでみると、空恐ろしい内容に震撼した。 「……何コレ!」 『どうして急に消えてしまったんだ?』『心配だよ。どこにいるの?』『無視? こんなに心配しているのに。そんなにボクを困らせて気を引きたい?』『警察に捜索を通報したほうがいいよね』『君の我が儘でたくさんの人に迷惑を掛けて、分かってる?』  こっちの我が儘で勝手にいなくなって、迷惑を掛けられたかわいそうな自分になっている。 「捨てていったのはそっちなのに!」  警察に捜索を通報するとも書いてあるが、そんなニュースはどこにも出てない。  一応、検索してみるがそれらしき捜索は出ていない。  暁が助けに来なかったら、確実に遭難していただろう。  それだけのことをしたのに、咲夜は全く認識していない。 「もう、頭に来た!」  怒りを通り越して嫌悪感でいっぱいになった。  置いていった理由を聞きたかったが、これ以上、とても付き合っていられない。 『もう自宅にいる。あなたとは別れる。理由は、自分の胸に手を当ててみろ』とだけ返信したのち、着信拒否した。  咲夜の性格では、黙って別れてくれないだろう。 「ああ、面倒くさい!」  目の前に現れたらどうやって撃退しようかと考えながら、疲れていた舞は寝落ちした。
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