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「確かに、この中を歩くのは危険か。分かった。今夜は泊まっていきなよ。とっておきのキノコ汁をごちそうするよ」
食事はやっぱりキノコ汁しかないようだ。
「自宅から味噌をもってきたんだ。前は醤油味だったから、今夜は味噌味にしよう」
目の前で暁がキノコ汁を作った。
山菜、ピンク色のハナダイコン、鶏肉を入れた。そして、ベニテングダケ。
「やっぱり、ベニテングダケを入れるのね」
「豊作だったからたくさんある。たっぷり入れよう」
暁が山盛りのベニテングダケを鷲掴みにすると、そのまま鍋に投入しようとしたので慌てて止めた。
「いやいや、もったいないから! そんなに入れなくていいから!」
「遠慮しないで食べて。今日の雨でまた生えているよ」
「今はキノコ採取より大事なことがあるでしょ? だから、そんなに入れなくていい。大事に食べようよ」
「そう?」
かろうじて、半分だけにしてもらった。
具材に火が通ると合わせ味噌を溶いて入れる。
味噌の香りが漂う。
「もう、食べられるよ」
暁がお椀に掬って渡してくれた。
「ありがとう」
今日はいつもと違う。鶏肉が入っている。
(キノコ以外の具がこんなにも嬉しいなんて……)
「いただきます」
「いただきます」
舞は、汁からいただく。
キノコと鶏肉の旨味が充分に出て深みのある味となり、飲むだけで体に元気をくれる。
「美味しい?」
「美味しい。醤油もいいけど、味噌もいいわね」
暁は、ニコっと可愛い笑顔を向けた。
「アビーもキノコ汁を食べた?」
「食べなかったなあ」
「え? 一度も食べなかったの?」
「アビーは、キノコが苦手なんだ」
「じゃあ、何を食べていたの?」
「パンにハムを挿んで食べていた」
「それだけ?」
「あとは、たまに魚の缶詰。ニシンとかイワシとか、そのまま食べる。一切、火を使わないんだよね」
「野菜は?」
「食べなかった。ああ、たまにリンゴをかじっていた。なんでも、リンゴさえ食べていれば健康に問題ないとか」
「偏食なんだ」
それとも、ベニテングダケを食べたくなかったからだろうか。
「舞は、キノコを美味しく食べてくれるから嬉しいよ」
内心では怖々食べていると知ったら傷付くだろう。
「暁が作ってくれるから、食べるのよ」
暁はキョトンとしている。
口にしたこっちが恥ずかしくなった。
「やだ! 何か言ってよ!」
「え? 何を?」
「え……と、キノコは美味しい……。だけど、やっぱり、怖くて。でも、暁がせっかく作ってくれるから……」
「確実に食べられるキノコしか入っていないから」
「ベニテングダケがね……」
「でも、なんともないでしょ?」
「う……、うん……。むしろ、なんかいい気分になる……」
暁は、ほほ笑んだ。
(なんだろう……。この気持ち……。咲夜といたときには、こんな会話はなかった……。心地よいってこういうことなんだ……)
二人でいることがとても楽しい。
初めて味わう贅沢な時間。
(暁が、見ている……)
見つめ合うと意識してしまって恥ずかしい。
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