4. 凍曇

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「確かに、この中を歩くのは危険か。分かった。今夜は泊まっていきなよ。とっておきのキノコ汁をごちそうするよ」  食事はやっぱりキノコ汁しかないようだ。 「自宅から味噌をもってきたんだ。前は醤油味だったから、今夜は味噌味にしよう」  目の前で暁がキノコ汁を作った。  山菜、ピンク色のハナダイコン、鶏肉を入れた。そして、ベニテングダケ。 「やっぱり、ベニテングダケを入れるのね」 「豊作だったからたくさんある。たっぷり入れよう」  暁が山盛りのベニテングダケを鷲掴みにすると、そのまま鍋に投入しようとしたので慌てて止めた。 「いやいや、もったいないから! そんなに入れなくていいから!」 「遠慮しないで食べて。今日の雨でまた生えているよ」 「今はキノコ採取より大事なことがあるでしょ? だから、そんなに入れなくていい。大事に食べようよ」 「そう?」  かろうじて、半分だけにしてもらった。  具材に火が通ると合わせ味噌を溶いて入れる。  味噌の香りが漂う。 「もう、食べられるよ」  暁がお椀に掬って渡してくれた。 「ありがとう」  今日はいつもと違う。鶏肉が入っている。 (キノコ以外の具がこんなにも嬉しいなんて……) 「いただきます」 「いただきます」  舞は、汁からいただく。  キノコと鶏肉の旨味が充分に出て深みのある味となり、飲むだけで体に元気をくれる。 「美味しい?」 「美味しい。醤油もいいけど、味噌もいいわね」  暁は、ニコっと可愛い笑顔を向けた。 「アビーもキノコ汁を食べた?」 「食べなかったなあ」 「え? 一度も食べなかったの?」 「アビーは、キノコが苦手なんだ」 「じゃあ、何を食べていたの?」 「パンにハムを挿んで食べていた」 「それだけ?」 「あとは、たまに魚の缶詰。ニシンとかイワシとか、そのまま食べる。一切、火を使わないんだよね」 「野菜は?」 「食べなかった。ああ、たまにリンゴをかじっていた。なんでも、リンゴさえ食べていれば健康に問題ないとか」 「偏食なんだ」  それとも、ベニテングダケを食べたくなかったからだろうか。 「舞は、キノコを美味しく食べてくれるから嬉しいよ」  内心では怖々食べていると知ったら傷付くだろう。 「暁が作ってくれるから、食べるのよ」  暁はキョトンとしている。  口にしたこっちが恥ずかしくなった。 「やだ! 何か言ってよ!」 「え? 何を?」 「え……と、キノコは美味しい……。だけど、やっぱり、怖くて。でも、暁がせっかく作ってくれるから……」 「確実に食べられるキノコしか入っていないから」 「ベニテングダケがね……」 「でも、なんともないでしょ?」 「う……、うん……。むしろ、なんかいい気分になる……」  暁は、ほほ笑んだ。 (なんだろう……。この気持ち……。咲夜といたときには、こんな会話はなかった……。心地よいってこういうことなんだ……)  二人でいることがとても楽しい。  初めて味わう贅沢な時間。 (暁が、見ている……)  見つめ合うと意識してしまって恥ずかしい。
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