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大会二日目。いよいよ決勝戦だ。
観客の顔は高揚し、それを見て舞も緊張する。
ハンガーに顔を出した。
チームアカツキが揃っている。
暁は、周囲の硬い表情をよそに、一人だけリラックスしているように見える。
余裕の表情を見て、舞は安心した。
きっと、いつも通りの実力を出せるだろう。
そんな暁を素敵と思い、より一層好きになる。
「暁の出番はいつ?」
「これからチャレンジャーカップがあって、僕が出るのはその後のマスタークラスだから……、昼頃かな」
掲示されたタイムテーブルを見ながら言った。
「じゃあ、その頃また来るね」
外に出て、観覧エリアに向かう。
(暁の出ないチャレンジャーカップなら、のんびり観戦できる)と思いながら通路を歩いていると、立見席の中に咲夜と実乃梨を見つけたのでショックを受けた。
「なんでここに? 実乃梨はともかく、咲夜は接近禁止のはず」
ここにいてはいけない人間がすぐそこにいることで、舞の動悸が激しくなる。
チケットがあれば誰でも入れる。エアレースを観戦するのは咲夜の自由。
だが、暁が参加するレースであることは充分知っているはずだ。
立見席からでも、とてもいい場所にある暁の応援特設シートが目に入る。
知りながらここにいるのなら、そこには悪意がある。
「どうしよう……。暁に知らせた方がいいのかな」
だが、レースが終わるまでは動揺を与えたくない。
「そうだ! 弁護士さんに連絡……」
晴朗に頼んで弁護士を呼び、警告してもらえばいい。
急いでハンガーに戻った。
晴朗と小春がいたので、二人だけに咲夜が来ていることを知らせた。
「エアレースを観に来ただけならいいんですが、変なことをしないか心配です」
「念のため、弁護士に連絡しよう。月船君、すぐ電話して」
「承知しました」
小春は、チームの邪魔にならないようハンガーから出て電話を掛けた。
ハンガー内はレース前で極度の緊張状態にある。
晴朗からも、「暁たちには知らせないでおこう。君も二人との接触は避けるように」と言われた。
「分かりました。私は席に戻ります」
あとは二人に任せてVIP席に向かったが、途中で実乃梨だけにばったり会ってしまった。
「実乃梨……」
「舞」
実乃梨が話しかけてきた。
「まさか、新しい彼氏がとんでもない大スター様だったとはね」
実乃梨は、会場の応援特設シートを見て、暁が咲夜とは比べ物にならないスターだと思い知ったらしく、苦々しい顔で言った。
格の違いをまざまざと見せつけられて、いら立ちを抑えきれない。
嫉妬、羨望。悔しさ。
ゆがんだ気持ちを隠すことなく、顔にも言葉にも出している。
晴朗からの忠告もあり、顔を背けて無視しようとしたが実乃梨に止められた。
「無視すんの? 元はと言えば、舞が悪いのに!」
さすがにそれは聞き流せず顔を向けた。
「私が悪い? 何が?」
「あんたはいつもそう。好き勝手やるくせに、一番いいものを苦労もせずに手に入れる。そして、いい気になって人を見下して」
「どういう意味?」
「言ったままよ」
腕組で睨みつける。
「咲夜を一方的に振るから、彼はとても憔悴して相談に乗ったの。それで付き合うようになった。それを、まるで私が横取りしたみたいに怒って悪口を言いふらしているんでしょ?」
「実乃梨、それは誤解している。そんなことをしていない。反対するには理由があるの。彼はやめた方がいい」
「ほら、やっぱり悪口を言っているじゃない!」
「だから、これは……」
「自分がわがままを言ったのに、咲夜のせいにして彼を傷つけたことは認めなよ!」
「それはできない。謝ってほしいのは、こっちだから」
舞の反論に実乃梨が呆れた。
「本当に呆れた。いつまでもいつまでも根にもって。もういいから、二度と付きまとわないで。今日は咲夜から誘われたんだ。咲夜も来ているのよ。このあとレースを観て帰るけど、絶対に邪魔しないでよ」
言いたい放題で実乃梨は席に戻っていった。
かつての親友の言葉に胸がえぐられた気分になる。
咲夜を追い出すような真似をするなとけん制されたということだ。
ここで弁護士がやってきて会場から出したら、また舞のせいにされて悪口を広められるのだろう。
「付きまとっているのはどっちよ……。せっかく、暁のお陰で立ち直れたのに……」
咲夜が何を考えてこの大会にやってきたとか、どうでもよくなった。
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