5. 飛翔

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 暁が皆と真剣な表情で話し合っている。 「スモーク装置が故障していたようだ」 「なんだって?」 「一体どうして?」 「そんなバカな。昨日の予選では問題なかった」  興造が点検するところを皆で見守る。 「これが原因だ!」  スモークの噴出口がガムで塞がれている。 「どういうこと?」 「いつからこうなったと言うのよ!」  この異常に誰も気づかなかったようだ。 「スモーク装置は、直前の点検をしなかった」  興造は悔しそうに言った。 「予選ではきちんと出ていたからしょうがないよ。興造さんは悪くない」  暁が自分を責める興造を庇う。  アビーが断言した。 「これで、はっきりした。誰かが妨害工作をしているって。ノートパソコンが無くなったのも単なる物取りじゃない。目的は、レースの邪魔ってことよ」  舞の脳裏に咲夜が浮かぶ。  咲夜が会場に来ていることは、晴朗とアビーと自分だけが知っている。  破壊した時に機体の構造を知ったとしたら、できなくはない。  ただ、運営スタッフが監視する中、機体まで近づいて工作をできるかどうか。 「予備があるので交換しよう」  興造が予備の部品でスモークの噴出口を取り換えた。 「問題は、タイムだな」 「どうなるの?」 「ペナルティタイムが1秒加算されてしまう」 「1秒も!? じゃあ……」 「ペナルティタイムはそれだけじゃない。その他にも、水平で通過しなかったペナルティ、重力をかけすぎたペナルティ、高度が足りないペナルティなど、いろいろと加算される。今はそれらを確認中なんだ」  相手選手にもペナルティタイム加算の可能性がある。  通過タイムは拮抗していた。あとは、ペナルティ次第のようだ。  アビーが場内モニターに映し出される今の対戦の映像を見ている。 「対戦相手にもかなりのペナルティがあるようね」 「それなら、まだ分からないな」 「結果が表示されるまで、待ちましょう」  祈るような気持ちで、電光掲示板に出される計測タイムの発表を待った。 「出た!」  結果が発表されて場内がどよめく。  電光掲示板に結果が表示された。暁が『RUN TIME00:58.024』、もう1機が『RUN TIME00:57.026』。 「ああ! 負けた!」 「スモークのペナルティタイムがなければ勝っていたのに!」  皆が悔しがった。 「うそ……。ここで負けるなんて……」  信じられない思いだ。 「あとは敗者復活を願うしかないな」 「敗者復活があるの?」 「ああ。敗退した中から1機だけ出られる」  このあとも対戦は続いている。  全て終了すると、次のステージに進む勝ち抜いたチーム名が呼ばれていった。  暁と対戦した相手のチームも呼ばれた。 「あとは、敗者復活だけだ」  祈るような気持ちで、呼ばれるのを待った。 「敗者復活は、チームアカツキ!」  アナウンスが流れた瞬間、優勝したかのように全員で飛び上がって喜んだ。 「やった!」 「残った! まだやれる!」  首の皮一枚繋がった。  アビーは暁に抱き着いて喜んでいる。 「良かった! 暁! 今度こそベストコンディションで勝ちに行くわよ!」 「ああ、頑張るよ」  私も涙が出て止まらない。  暁に慰められた。 「舞、まだ優勝したわけじゃないから。涙は最後までとっておいてよ」 「うん、そうだね」  早すぎる涙。  恥ずかしくなりながらふき取る。  空を見ていた雲霄が暁に伝えた。 「風が乱れて、雲が出てきたな。もしかしたら一雨、降るかも」  皆で、会場に置かれた風速計を見る。  天気が荒れれば、レースも荒れる。 「雨が降るかもしれないな。尾翼を短いのに変更する?」  雨天の場合に取り換えるつもりで、長さの違う尾翼が用意されている。 「いや、下手に変えると操縦感覚が狂う。今のままでいいよ」  暁は、取り換えを拒んだ。 「じゃ、このままで」  雲霄は、最後の点検をした。 「今度は、絶対に『AKATSUKI』号から目を離さないようにしよう」 「ああ」  雲霄、興造、アビーの誰かが必ずいるようにした。  暁は、他の人に聞かれない様、小声でアビーへ頼んだ。 「交換したスモーク装置を保存しておいてくれないか」 「分かった」  アビーはすぐに目的を察した。  興造が外した部品をビニール袋に入れると、自分のカギ付きのトランクに入れた。 「レースまで休憩してくる」  奥の休憩所に入った暁を舞は追った。
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