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暁が皆と真剣な表情で話し合っている。
「スモーク装置が故障していたようだ」
「なんだって?」
「一体どうして?」
「そんなバカな。昨日の予選では問題なかった」
興造が点検するところを皆で見守る。
「これが原因だ!」
スモークの噴出口がガムで塞がれている。
「どういうこと?」
「いつからこうなったと言うのよ!」
この異常に誰も気づかなかったようだ。
「スモーク装置は、直前の点検をしなかった」
興造は悔しそうに言った。
「予選ではきちんと出ていたからしょうがないよ。興造さんは悪くない」
暁が自分を責める興造を庇う。
アビーが断言した。
「これで、はっきりした。誰かが妨害工作をしているって。ノートパソコンが無くなったのも単なる物取りじゃない。目的は、レースの邪魔ってことよ」
舞の脳裏に咲夜が浮かぶ。
咲夜が会場に来ていることは、晴朗とアビーと自分だけが知っている。
破壊した時に機体の構造を知ったとしたら、できなくはない。
ただ、運営スタッフが監視する中、機体まで近づいて工作をできるかどうか。
「予備があるので交換しよう」
興造が予備の部品でスモークの噴出口を取り換えた。
「問題は、タイムだな」
「どうなるの?」
「ペナルティタイムが1秒加算されてしまう」
「1秒も!? じゃあ……」
「ペナルティタイムはそれだけじゃない。その他にも、水平で通過しなかったペナルティ、重力をかけすぎたペナルティ、高度が足りないペナルティなど、いろいろと加算される。今はそれらを確認中なんだ」
相手選手にもペナルティタイム加算の可能性がある。
通過タイムは拮抗していた。あとは、ペナルティ次第のようだ。
アビーが場内モニターに映し出される今の対戦の映像を見ている。
「対戦相手にもかなりのペナルティがあるようね」
「それなら、まだ分からないな」
「結果が表示されるまで、待ちましょう」
祈るような気持ちで、電光掲示板に出される計測タイムの発表を待った。
「出た!」
結果が発表されて場内がどよめく。
電光掲示板に結果が表示された。暁が『RUN TIME00:58.024』、もう1機が『RUN TIME00:57.026』。
「ああ! 負けた!」
「スモークのペナルティタイムがなければ勝っていたのに!」
皆が悔しがった。
「うそ……。ここで負けるなんて……」
信じられない思いだ。
「あとは敗者復活を願うしかないな」
「敗者復活があるの?」
「ああ。敗退した中から1機だけ出られる」
このあとも対戦は続いている。
全て終了すると、次のステージに進む勝ち抜いたチーム名が呼ばれていった。
暁と対戦した相手のチームも呼ばれた。
「あとは、敗者復活だけだ」
祈るような気持ちで、呼ばれるのを待った。
「敗者復活は、チームアカツキ!」
アナウンスが流れた瞬間、優勝したかのように全員で飛び上がって喜んだ。
「やった!」
「残った! まだやれる!」
首の皮一枚繋がった。
アビーは暁に抱き着いて喜んでいる。
「良かった! 暁! 今度こそベストコンディションで勝ちに行くわよ!」
「ああ、頑張るよ」
私も涙が出て止まらない。
暁に慰められた。
「舞、まだ優勝したわけじゃないから。涙は最後までとっておいてよ」
「うん、そうだね」
早すぎる涙。
恥ずかしくなりながらふき取る。
空を見ていた雲霄が暁に伝えた。
「風が乱れて、雲が出てきたな。もしかしたら一雨、降るかも」
皆で、会場に置かれた風速計を見る。
天気が荒れれば、レースも荒れる。
「雨が降るかもしれないな。尾翼を短いのに変更する?」
雨天の場合に取り換えるつもりで、長さの違う尾翼が用意されている。
「いや、下手に変えると操縦感覚が狂う。今のままでいいよ」
暁は、取り換えを拒んだ。
「じゃ、このままで」
雲霄は、最後の点検をした。
「今度は、絶対に『AKATSUKI』号から目を離さないようにしよう」
「ああ」
雲霄、興造、アビーの誰かが必ずいるようにした。
暁は、他の人に聞かれない様、小声でアビーへ頼んだ。
「交換したスモーク装置を保存しておいてくれないか」
「分かった」
アビーはすぐに目的を察した。
興造が外した部品をビニール袋に入れると、自分のカギ付きのトランクに入れた。
「レースまで休憩してくる」
奥の休憩所に入った暁を舞は追った。
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