2. 雄飛

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 男性は、空色のジャケットに赤いポケットチーフ。女性は、体のラインが全部見える光沢のあるミニスカートのスーツ。 「見事なマニューバーだった!」  自分の他にも見学者がいたことに気付かなかった。 (この人たち、誰? たまたま通りかかっただけ? ううん。そんなはずはない)  ここは、近くに商業施設も民家もない飛行場。  たまたま通りかかるような場所ではない。  そして、先ほどの感想が素人じゃない。 (確か、『マニューバー』と言っていた。何のことだろう)  エアレースに詳しそうだが、それより気になったことがある。 (いつからいたの? 全部、聞かれた?)  暁は、二人を見て驚くことなく、むしろ、目を輝かせた。 「来てくれて、ありがとうございます! 晴朗さん!」  暁が丁寧にお礼を述べたので焦った。 「この方たちとお知り合い?」 「うん。スポンサーの陸野晴朗(おかのせいろう)さんと、秘書の月船小春さん。晴朗さんは、IT企業の社長さんなんだよ」 「ス、スポンサー!? 社長!?」  ただの見学者じゃなくて、社長と秘書だった。  そして、暁にとっては生命線ともいえるスポンサー! 「初めまして。陸野晴朗です」  社長は、遥かに年下の女子高生にも柔らかな物腰で挨拶してくれる紳士。  それに対して、後ろの秘書はツンと冷たい顏で視線も合わせない。 「初めまして。御空舞(みそらまい)です。あの、暁とはお友達です」 「お友達? まさか。『素敵―』とか、『恰好いいー』とか、『好きー』とか、物凄く叫んでいたけど」 「ハ?」 (このおじさん、何気に人の本音をポロリと本人に伝えた?)  誰にも聴こえていないと思って、叫んだだけなのに。本人にまでばらされるとは思わなかった。 「声を掛けたら悪いと思って、後ろからずっと見ていたんだよ」 (ヒエエ! だったら、先に声を掛けて欲しかった! 暁に知られて、恥ずかしいじゃない!)  真っ赤になっていると、暁が驚き顔で聞いてきた。 「え? そうなの?」 「あ、いや……、ちが……」  否定するのも、暁を傷つけてしまうかと思い直した。 「恰好いいと思ったのは、本当で……」  正直に感想を伝える。 「でも、違うんです。ファンです! ファン!」  社長が、楽しそうに言った。 「暁にファン第一号ができたか。良かったな」 「えー!?」  暁が不満そうな声をあげたので、舞は思わず詰め寄った。 「私がファン第一号じゃ、イヤなの?」 「いや、そうじゃないよ」  暁が困っていると、社長が笑って言った。 「ああ、違った。訂正する。暁のファン第一号は私だった。ハッハッハッ。君は二号ね」  子どもみたいなことを言う社長だ。  後ろの秘書は、面白くなさそうな顏をしている。  暁が理由を説明した。 「舞、今日はテスト飛行も兼ねていて、出来を見てもらおうと晴朗さんに声を掛けていたんだ。忙しい人だから来てもらえるかどうか微妙だったんで、舞に言うのを忘れていた。ごめん」 「そうだったの。いいの。気にしないで」  自分の方がついでの見学者。スポンサー様ならそちらが最優先だ。  社長は、『AKATSUKI』号の周囲をグルリと歩いて眺めた。 「次のレースまでに調整は間に合いそうかな?」 「はい。大丈夫です。本番にはばっちり調整して出場できるでしょう」 「うちのロゴは両翼に入るかな? それとも、胴体かな?」 「どこでも、お好きな場所で結構です」  スポンサーに気遣う暁を、大変そうだなと思って見ていた。 「月船君、デザイン会社に候補をいくつか出すように伝えてくれ」 「承知しました」  秘書がスケジュール帳を見ながら言った。 「社長、そろそろ、次の予定に向かうお時間です」 「分かった。じゃ、暁、本番も期待しているよ」 「はい。任せてください。本日は、ありがとうございました」  社長と秘書は、ドライバーが待つ高級車に向かって揃って歩いて行った。  暁は、車が見えなくなるまで見送った。
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