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「あ、ううん。私、師匠はてっきり男の人だと思っていたから驚いちゃって」
「ああ。そうか。言ってなかったね。レースが近いから、僕の様子を見に、アメリカから来てくれたんだ」
「じゃあ、レースが終わるまでいるのね?」
「そうなるかな? ねえ、アビー」
「当然よ。私は、『チームアカツキ』のメンバー。そして、師匠でバディ」
アビーは、誇らしげに『師匠でバディ』のところを強調した。
舞は暁に聞いた。
「ねえ、バディって、何?」
「バディは、相棒って意味だよ」
ただのチームメンバーではなく、一段階強くて親密な絆があると言うのだろう。
「暁はチームを持っているのね」
「ああ。ワールドシリーズは、さすがに一人でできないからね」
「『チームアカツキ』って、他に誰がいるの?」
「晴朗さんと、雲霄さんと言って、元空自のパイロットだった人と、飛行機製造で技術提供してくれている工房の社長さんがメンバーだよ」
メンバーに入れたら、いつでも堂々と一緒にいられるのだろうか。
「私も入りたい。どうすれば、入れるの?」
「そんなに厳密なものじゃなくて、有志の集まりだから、僕の協力者は、みんなチームメンバーってことになるんだよ」
「つまり!」
アビーが語気を強めて口を挿んだ。
「アキのエアレース優勝ために、自分の資産、技術、環境を提供できる人がメンバーになれるってこと。あなたは、アキに何を提供できるの?」
詰め寄るアビーに、舞は腰が引けた。
「え、えっと……。元気?」
「元気? ハッ」
鼻で笑われた。
「抽象的な答えは求めていない。アキのために出来ることは何かを、合理的に考えて欲しいだけ。あなたを責めているんじゃない。元気って、何よ? 具体的に教えて?」
「……」
見かねた暁が、アビーを諫めた。
「アビー、言い方がきつい」
「当たり前の質問をしただけ」
暁の苦言もどこ吹く風。
アビーは、さらに投げかけた。
「ここへ、アキが元気になる料理でも作りに来る? 毎日よ? それなら、立派なチームメンバーよ」
「それは……」
料理は得意ではない。
毎日来ることもできない。
アビーは、即答できない私に呆れた。
「話にならない。そんな覚悟もなくて、チームメンバーになれると思った? 甘い考えだと自分で気づかない?」
さっさと諦めなさい、と暗に言われている。
落ち込んでいる舞を暁が慰めてくれた。
「舞、気にしないで、アビーは気が強いけど、意地悪ではないんだ。僕がエアレースで勝つために、最善の方法を常に考えてくれていて、つい、熱くなってしまうんだ」
アビーの言ったことは正論だと舞だってわかっている。
精鋭だけをメンバーにしたいだけ。
真剣に考えているだけに、何もできないくせにチームに入りたいなどとほざく人間など、浅はかに見えて許せないのだ。
暁のために、スポンサーを見つけて話を付けることが出来てしまう人だ。
すべては暁を優勝させるためで、意地悪で言っているのではない。
「暁……。私、もう、ここに来ない方がいいよね。だって、邪魔になるだけだから」
「舞、君の気持ちはとても嬉しいよ。チームメンバーじゃなくても、見に来てよ」
暁までも、チームに入れる気がないと分かってショックだった。
アビーは、満足そうだ。
「チームには無理だけど、アキのファンクラブには入れるんじゃない?」
「僕にファンクラブなんてないよ?」
暁が、『何を言っているんだ』と言わんばかりに否定した。
アビーは本気で言ったんじゃない。『その他大勢扱いならしてやる』と、言いたいのだと舞は悟った。
とうとう、耐え切れなくなった。
「私、今日は帰る」
「来たばかりなのに?」
「帰る」
いたたまれなくなった舞は、ハンガーを飛び出した。
暁は追ってこない。
悔しさから、歩きながら泣いた。
何もできない自分に泣いた。
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