3. 曇天

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「あ、ううん。私、師匠はてっきり男の人だと思っていたから驚いちゃって」 「ああ。そうか。言ってなかったね。レースが近いから、僕の様子を見に、アメリカから来てくれたんだ」 「じゃあ、レースが終わるまでいるのね?」 「そうなるかな? ねえ、アビー」 「当然よ。私は、『チームアカツキ』のメンバー。そして、師匠でバディ」  アビーは、誇らしげに『師匠でバディ』のところを強調した。  舞は暁に聞いた。 「ねえ、バディって、何?」 「バディは、相棒って意味だよ」  ただのチームメンバーではなく、一段階強くて親密な絆があると言うのだろう。 「暁はチームを持っているのね」 「ああ。ワールドシリーズは、さすがに一人でできないからね」 「『チームアカツキ』って、他に誰がいるの?」 「晴朗さんと、雲霄(うんしょう)さんと言って、元空自のパイロットだった人と、飛行機製造で技術提供してくれている工房の社長さんがメンバーだよ」  メンバーに入れたら、いつでも堂々と一緒にいられるのだろうか。 「私も入りたい。どうすれば、入れるの?」 「そんなに厳密なものじゃなくて、有志の集まりだから、僕の協力者は、みんなチームメンバーってことになるんだよ」 「つまり!」  アビーが語気を強めて口を挿んだ。 「アキのエアレース優勝ために、自分の資産、技術、環境を提供できる人がメンバーになれるってこと。あなたは、アキに何を提供できるの?」  詰め寄るアビーに、舞は腰が引けた。 「え、えっと……。元気?」 「元気? ハッ」  鼻で笑われた。 「抽象的な答えは求めていない。アキのために出来ることは何かを、合理的に考えて欲しいだけ。あなたを責めているんじゃない。元気って、何よ? 具体的に教えて?」 「……」  見かねた暁が、アビーを諫めた。 「アビー、言い方がきつい」 「当たり前の質問をしただけ」  暁の苦言もどこ吹く風。  アビーは、さらに投げかけた。 「ここへ、アキが元気になる料理でも作りに来る? 毎日よ? それなら、立派なチームメンバーよ」 「それは……」  料理は得意ではない。  毎日来ることもできない。  アビーは、即答できない私に呆れた。 「話にならない。そんな覚悟もなくて、チームメンバーになれると思った? 甘い考えだと自分で気づかない?」  さっさと諦めなさい、と暗に言われている。  落ち込んでいる舞を暁が慰めてくれた。 「舞、気にしないで、アビーは気が強いけど、意地悪ではないんだ。僕がエアレースで勝つために、最善の方法を常に考えてくれていて、つい、熱くなってしまうんだ」  アビーの言ったことは正論だと舞だってわかっている。  精鋭だけをメンバーにしたいだけ。  真剣に考えているだけに、何もできないくせにチームに入りたいなどとほざく人間など、浅はかに見えて許せないのだ。  暁のために、スポンサーを見つけて話を付けることが出来てしまう人だ。  すべては暁を優勝させるためで、意地悪で言っているのではない。 「暁……。私、もう、ここに来ない方がいいよね。だって、邪魔になるだけだから」 「舞、君の気持ちはとても嬉しいよ。チームメンバーじゃなくても、見に来てよ」  暁までも、チームに入れる気がないと分かってショックだった。  アビーは、満足そうだ。 「チームには無理だけど、アキのファンクラブには入れるんじゃない?」 「僕にファンクラブなんてないよ?」  暁が、『何を言っているんだ』と言わんばかりに否定した。  アビーは本気で言ったんじゃない。『その他大勢扱いならしてやる』と、言いたいのだと舞は悟った。  とうとう、耐え切れなくなった。 「私、今日は帰る」 「来たばかりなのに?」 「帰る」  いたたまれなくなった舞は、ハンガーを飛び出した。  暁は追ってこない。  悔しさから、歩きながら泣いた。  何もできない自分に泣いた。
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