Little Tea Party

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Little Tea Party

 吹く風も爽やかな一日だった。梅雨の真っ只中だというのに、空は綺麗な青色で晴れ渡り、日差しは夏の気配を含んでいる。 「梅雨の中休みか」  そう、藤野紫(ふじのむらさき)はひとりごちた。 そして、砂時計の砂が落ち切るのを見て、手元のティーポットのカバーを外す。今日の茶葉はセイロン・キャンディの『モンテクリスト』。味が濃い茶葉なので、ミルクを用意してある。  カップに注いで、香りを楽しんだ後、一口そのままで飲んでみる。ストレートでも美味しいが、渋みが強いのが特徴かつお茶請けがないのでミルクティーにしよう。 そんな事を考えながら、ミルクを垂らす。ゆっくりとした時間が流れる中で、紫は満足そうに紅茶を口に運んだ。しかし、そんな時間も長くは続かない事は知っている。何故なら紫が寛いでいるのが、学生寮のリビングだからだ。  寮長という特権を活かして持ち込んだ自分専用の椅子に座ってのんびりできているものの、後十五分もかからない間にここは忽ち喧騒で満ち溢れる一室になる。それを知っているからこそ、今この貴重な空気を満喫しているのだ。案の定きっかり十五分後、リビングのドアが勢いよく開かれる。 「オラ! って、まだ藤野だけか?」  一番に入ってきたのは、ダニエル・アブリカンだった。持っていた荷物を適当に置くと、煩わしそうにブレザーの上着を脱ぐ。 「今日は珍しく早い早い」  最後の一口を楽しもうとした途端、ダニエルが振り向いて何かを取りだしはじめた。思わず、楽しむも何もごくりと飲みこんでしまう。 「そうだ。これ、藤野にやるよ」  そう言って目の前に差し出された紙袋。無言で受け取ると、紫は中身を確認してみた。中には薄桃色の巾着のような包みがいくつか入っている。取り出してみるとどうやら、和菓子が中に入っているらしい。ダニエルとは全く結びつかない繊細な贈り物に、紫は口元に意地悪そうな笑みを浮かべた。 「お前らしくもない。どうしやった? 自分で買ったわけではなかろ」  ソファーにどっかりと音を立てて座りながら、ダニエルは答える。 「わかってんじゃん。親父が昨日、仕事場から貰ってきたんだ。うちの家族、和菓子苦手だからさ。お前、よくお茶飲んでるし。お茶請けにはいいんじゃないかと思ってよ」  和菓子をお茶請けに出すなら、普通は日本茶だろう。そう、紫は言いたくなったが。目の前でニコニコしている友人を見ていたら、何だかそんな一言は余計だと思い直した。ふふ、実にコイツらしいと思った。 「ありがとう。喜んで頂こう」  もう一度、紙袋に丁寧に包みをしまう紫を見て。ダニエルは思った。――なんだ、今日は珍しく素直だな。もちろん、心の中で。紫は立ち上がると、かけてあった鞄に紙袋を丁寧に仕舞った。そして、窓を完全に開け放ち、水無月の風を受ける。眩しそうに眼を細め、空を見上げた。 「ああ、今日は本当に良き天気よ」 「ほんっと、野球すんには最高だな」  いつの間にか、部活の準備を始めたダニエルも、紫の隣に並んで空を見ている。梅雨晴れの空。ゆっくりとしたティータイムは、これにて終了。
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