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朝ごはん2
朝起きたら、朝食が出来ている光景というのは、素晴らしい事だと思わないか?
スイッチを押さないと転げ回る目覚まし時計に、せっつかれるように起きた。重い瞼をこじ開けると、中途半端に開いたカーテンの隙間から、朝の日差しとおはようございます。可愛いけどけたたましい音と共に転がり続ける目覚まし時計を、仇を討つ勢いで叩き消し、ベッドから上半身を起こす。
部屋に舞い上がった小さな埃をキラキラと反射させていた。でも低血圧のせいか、まだ思考はぼんやりと膜が張っている。それでも、耳は勝手に音を収集してくる。
リビングの方から聞こえてくる食器のカチャカチャという音と、ソプラノとメゾソプラノの話し声とか。今日の朝食当番は、僕の姉さん。青葉ちゃんは、ご飯の匂いで起きてきたみたいだ。食器の音に混じって、聞こえる姉さんの笑い声。あぁ二人は仲良くやっているのだなと何となく安心する。まぁ、姉さんは人を嫌いになる事があるのだろうかというくらい、誰にでも優しいけど。
そんな事を考えながら、ベッドから今度こそ脱出すると、素足のままリビングへと足を向けた。そろそろ床が冷たいからスリッパを買ってこなければ。霜焼けが怖い。もちろん、姉さんと青葉ちゃんの分も色違いで三人分揃えよう、アニマル系とかどうかなぁ。とりあえず洗面所で顔を洗ってから、リビングにまだ重い瞼を擦りながら顔を出す。
「おはよう、青葉ちゃん」
「おはようございます」
「姉さんも」
「おはよー、よーちゃん」
二人の家族に挨拶する。ベーコンエッグを乗せた皿やフライパンを持ったまま、パタパタと動き回る二人の姿を見ると、普段は猫みたいなのに、こういう所は犬みたいだと思う。おっと新聞とってこないと。
新聞とチラシを抱えて玄関から戻ってくると、香ばしいバタートーストと美味しそうなおかず達に食欲を刺激されたのか、青葉ちゃんのお腹がきゅるると可愛く鳴った。慌ててお腹を抑えた青葉ちゃんに、思わずふき出してしまう。姉さんの作る朝食は美味しいから、無理もないんだけどね。それに自分のお腹だってもうすっからかんだ。
わかりにくいけど、照れ隠しだろうかくしゃっと顔をしかめた青葉ちゃんを促して食卓についた。最後の一品を置いた姉さんを待って、食器満員御礼のテーブルを囲んで両手を合わす。
「「頂きます」」
「はい、召し上がれ」
カチャカチャと食器とフォークの触れ合う音、つけっ放しのテレビから流れるアナウンサーの声、姉さんの楽しげな声とそれにぽつりぽつりと答える青葉ちゃんの声が耳をくすぐる。いろいろな音が混じって、そこそこうるさい朝の食事風景。
こんがり焼けたバタートーストは美味しくて、朝からわざわざ作ったのであろう柿と胡桃のサラダや焼きたてトマトも美味しい。正直、本当はご飯とみそ汁の純和風の方が好きだけれど。最近は洋食も捨て難いなと思うようになっている自分は『餌付けされているな』とひっそり笑う。
その笑いを見たらしい青葉ちゃんが不思議そうに首を傾げたけれど、何でもないと手を振って食事を続けた。その後姉さんが朝食の時間だというのも忘れて青葉ちゃんを抱きしめるのをひっぺはがしたり。抱きつかれた拍子に喉にトーストの欠片を詰まらせたらしい青葉ちゃんにミルク多めの紅茶を渡したり。
賑やかな朝食の時間は続く。生きている音が満ちている空間。愛しい人達が目の前にいる光景。――きっと、幸せってこんなカタチをしているんだ。
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