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鍋パ
冬休みも終わり頃に、鍋を作るから来いと言われて。薄日の中、親友の家まで出かけて来たのは良いけれど。何で突然鍋パなんだろうと棗は思ったが、まぁ寒いし大勢で食べるのは美味しいからねと自分なりの結論を出して雪城家に到着する。見慣れた親友の家のリビングには既に人だかり。そもそも音学総合部の二年生のみであるから、たかがしれているが。リビング内には既にいい匂いが立ちこめて、棗の空腹はさらに更に刺激された。
「いらっしゃい、棗。ご苦労様」
コートを脱ぎながら、エプロンと三角巾をしてお玉を手にした、まるで昭和ドラマの主婦のような白雪をマジマジと見つめてしまった。洗濯板が似合う気がする。
「……似合うねぇ」
「何が言いたいの?」
刺さる視線は、名前の如く冷ややかだった。そんな事は慣れっこな棗は気にも留めず、白雪の手元を覗き込む。テーブルの鍋の中の物体は――湯気でよくよく判別できないものの、洋食でない事は判る。
「……お芋?」
「そう、君の好きなお芋」
「ジャガ芋? 肉じゃが?」
「……何処をどう見たらじゃが芋に見える? 視力まで馬鹿になった?」
全く有難くないお言葉を頂きつつ、おそらく白雪が座るであろう席の隣に腰を下ろした。すぐに目の前に置かれる小鉢の中身を確認する。
「あ、里芋かぁ」
それに桃華とスピカが答える。
「そうだよー。ほうとうにするか」
「芋煮にするか随分ともめたのよ。でも今回はね」
手を合わせてから箸を取って、口を付けると懐かしい味がした。
「ねぇ……これ」
棗はハッとして、親友を見る。
「そう。前に、一度食べたでしょ? 忘れていたと思うけど……」
「……今思い出したよ」
「だと思った」
微笑みながら差し出されるご飯が盛られた茶碗。確か、昨年に白雪の故郷に家族と遊びに行った時に、暖かい炬燵に入って食べた芋煮。すると、目の前に座るひばりが口を挟んだ。
「何だか。そうしてるとさ」
「何?」
作り置きのおかずを入れた小鉢を白雪から受け取ろうと手を伸ばしていた動きを止める。桃華とスピカはくすくす笑っているし。義光に至っては、デジカメでそんな二人をフレームに収めている。
「まるで、新婚夫婦みたいだよね」
その言葉を聞いて、二人は改めてお互いをまじまじと見る。割烹着姿の美少女と、シャツとセーター、ズボン姿で少年に見えなくもない少女。ややあって棗は爆笑し、白雪は聞こえよがしに溜め息をついた。
そんな風に、年明けが賑やかにすぎていく。少しに皮肉とたくさんの愛情がこめられた鍋料理。やっぱり誰かと一緒に食べると美味しいね。棗を含むその場の全員がそう思ったようだ。
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