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突撃訪問
翌日。
登校早々、教室で士綺は机に突っ伏していた。
今日も褒めてもらおうと早めに登校した。けれど何故か銀がいなかった。他の風紀委員に聞いたら体調が思わしくないので検査は欠席させてほしいと連絡があったらしい。
昨日の朝はそんな素振りなかったのに。
明日も早く来るねって言ったらはいはいと言って呆れ笑いを浮かべてくれたのに。
もしかして何かあったのだろうか。
それとも、自分が何かした?考えてみたが、思い当たる節がない。
でも、無意識に何かしたなら謝りたい。そうじゃないとしても心配だ。
ゆっくりだけど近づけてきたんだ。もっともっと、近づきたい。
もっと、一緒にいたい。
本当は騒ぎになるからやってはいけないけれど昼休み、教室に行こう。もし休みだったら統馬か誰かに聞いて家を訪ねよう。そう決意した士綺はふと、教室が騒がしいことに気付く。
何かあったのかなと顔を上げかけ、その前に声がかかった。
「よお、城崎 士綺。朝から居眠りか?」
「統馬・・・センパイ?」
その声に顔をあげると、そこには岡安 統馬が立っていた。
芸能科に在籍しててもおかしくないほどの美人で普通科だけでなく芸能科の中にも秘かに好意を抱いている生徒がいるとかいないとか噂の人物。
銀とよく一緒にいるが、自分が直接話したのは数えるほど。そんな彼がなぜ1人でここにいるのだ。
しかし考え巡らせるより先に、突然、統馬が士綺の胸ぐらを掴んだ。
想定外の事態に士綺が言葉を失っていると統馬が口を開く。
「城崎、お前、本気でシロが好きなら告れ」
「へ?」
「聞こえなかったか?告白しろって言ってんだ」
いきなり来たかと思えば唐突な要求に士綺は訳が分からない。
「なんでそんなこといきなり?」
「今がその時だからだ。ちなみにいつもみたいな軽い調子じゃなく、ガチで真剣な告白だからな。冗談抜きじゃないと今のアイツには届かない」
「今の?それって今日先輩が朝いなかったのと関係ある・・・ですか?」
統馬の言い方が引っかかって反射的に疑問をぶつけたが、一応目上なので語尾を付け足す。
対する統馬はその拙い敬語より投げかけられた疑問に少し目を瞠り、フッと笑って士綺の前の席に座った。
「お前、わりと勘が鋭いよな。多分そう。昨日、昼にお前見かけてからあいつの様子がおかしいんだ」
「どういうこと?」
「それはあいつ自身に聞いてくれ。ただ、高い確率でお前が絡んでることは確かだ」
「どうしてわかる、んですか?」
敬語を使い慣れていないからまた拙く付け足して問う士綺。
統馬はふぅと息をつくと椅子に寄りかかって腕を組み、目を伏せて答えた。
「あの時と同じ顔してたからな」
「あの時って?」
「シロが人を好きになれなくなった理由。ただ、あの時とは違って今回のは早とちりだと思うけどな」
統馬の煮え切らない返答に士綺はうつむく。
昨日、自分のどんな言動が銀を傷つけたのだろう。
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