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移動教室の途中
『奴らは気に入った子をあらゆる手段で骨抜きにした後、簡単にポイっと捨てるんだ!しかも、その子を別の奴らに回したり、その子とは別の相手を作って平気で二股したり!サイテーだろ!?』
「シロ、どう思う?」
2限目が終わり、理科実験室へと向かう廊下で統馬が今朝の話題を振ってきた。
銀はんーと唸った後に自分の意見を述べる。
「芸能科って一括りにするのはおかしいよな。全員がそうとは限らないし、少なくとも城崎はそういう奴ではないと、思う」
「だな。まあ、あいつの場合はやっかみも含まれてるからなぁ」
彼はことあるごとにああやって声高に騒ぐので最近ではみんな真剣に取り合わなくなった。
噂によれば昔、彼女を芸能科に取られたからではないかと言われている。しかし、あくまでこれも噂で真意はわからない。
ただ、やはり芸能科だからという偏見はやめた方がいいと思う。
芸能人だからとみんながみんな浮ついた人間ばかりじゃない。少なくとも自分の周りはみんな真面目で仕事に懸命なのに。
だが、それをいったところで彼の耳には届かない。
すでに実証済みだ。
これ以上気を揉んだところで仕方がないと銀は話題を変えることにした。
「そういえば、愛し君への映画の主演って芸能科の生徒なんだよな」
「・・・へえ、そうなんだ」
銀が炯羽原作の映画に話題を変えると、統馬は一瞬眉をひそめた後にそう返した。
しまった。話題のチョイスをミスったと銀は内心、頭を抱える。
統馬はこの小説があまり好きじゃない。愛し君へ、は亡き母に宛てた父のラブレターのようなものだ。それを統馬が楽しげに語るわけがない。
銀はこれ以上機嫌を損ねない程度に話題を続けた。
「確か、瑞樹 蕗央(みずき るちか)って名前だった」
「瑞樹・・・あぁ、確かティーン雑誌の人気モデルじゃなかったか。女みたいに可愛い男。そういや俺、この前、たまたまそいつと廊下で鉢合わせた時、何故か知らないけど睨まれたな」
「え、どうして?」
「さぁ・・・?」
統馬も銀も訳が分からず首をかしげる。
瑞樹 蕗央は明るい茶髪のショートヘアで華奢な体格の2年生。中性的で整った容姿をしているので雑誌ではユニセックスな服を着ていることが多い。いつも左前髪を留めている赤いヘアピンがトレードマークだ。
確かこの前、メンズ雑誌にも載っていた。
その隣は確か・・・。
「あっ、シロせんぱぁい♪」
思い出そうとした瞬間、弾んだ声がして銀は後ろから衝撃と共に引き寄せられる。
声を聞かなくてもわかる。こんなことをする奴なんて1人しかいない。
「・・・城崎・・・」
「こんなところで会うなんて運命かな、先輩♡」
「たまたまだッ」
そう言って精一杯の抵抗を試みる。が、士綺の方が力が強いのでまったく効果はない。
いつもそうだ。この体勢になると士綺の気が済むまで放してもらえない。
と、その様子を見ていた統馬がクスクス笑ってからかってきた。
「ホント、愛されてんなぁ、飼い主くん」
所詮他人事なので実に楽しそうだ。
銀は統馬の呼び方にバッと顔を赤らめて士綺の手をバシバシと叩きながら命令口調で叫ぶ。
「離せ、バカ城崎!」
「え~いいじゃぁん。登校時間以外で先輩に逢えたんだもん♪もっとお話ししたい」
満面の笑みで放すどころか少し力が強くなった。
言っても聞かない。とんだ駄犬だ。
これ以上余計な労力を使いたくなくて頭を抱えて抵抗を止める。
すると士綺は構ってもらえると目を輝かせ、頭に頬ずりし始めた。
マジで駄犬だ。
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