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映画の主演
「先輩今から移動教室?」
「そうだよ。科学」
「へぇ、俺は明日の仕事の打ち合わせ終わらせて教室に戻るとこ」
「モデルの?」
「ううん。今やってる火曜ドラマの5話にちょい役で出演するんだ」
「え、それってもしかして『ウキヨ カクメイ』?」
『ウキヨ カクメイ』は今中高生に人気の復讐ドラマだ。
16歳の天才少年が『バビロニア』という暗殺者となり、世にはびこる闇を変革の名の元に駆逐していくマンガ原作のドラマだ。
銀も見ているドラマなので興味津々で聞くと、士綺はこくんと頷く。
「バビロニアの依頼者役でね。先輩が好きだって聞いて二つ返事でオッケーしたんだ♪」
「依頼者役ってことはIKI(イキ)とは顔合わせないか」
統馬の問いに士綺は不思議そうに首をかしげる。
「IKI・・・って確かバビロニアを追ってる若手刑事の役の人だよね?どうして?」
「俺たち、IKIのファンなんだ。な?」
同意を求められ、銀はコクコクと何度も頷く。
バビロニアを見るきっかけも彼が出演するからだった。
周囲には秘密だが、彼は2人の従兄なのだ。真面目で優しく、特に銀は兄のように慕っている。
今のところ舞台役者が主だが、最近はドラマにもよく出るようになった実力派俳優。
「だから会えるなら挨拶したらどうかなと思ったんだけど」
「あー会わないと思う。会うのは主演のバビロニアと復讐相手だけ。サインもらえなくてごめんね」
銀の期待に応えられなかったとシュンとする士綺に銀は呆れ笑いを浮かべながら頭を撫でる。と、先ほどの話題を思い出し、銀はついでに尋ねることにした。
「別にいいよ。あ、そういえばさ、城崎って前に瑞樹 蕗央となんかの雑誌で一緒に写ってたよな?」
「あ、メシアかな?うん、俺専属モデルだから」
「瑞樹 蕗央ってどんな子?」
「どうして?」
「これは秘密にしてほしいんだけど、今度その子が『愛し君へ』って映画の主演するらしいんだ。で、原作俺の父さんの小説なんだよな」
一応口止めしつつ、小声でその事実を伝えると士綺は目を見開き、周囲を気にしながら小声で聞き返してきた。
「先輩のお父さんって西脇 炯なの?」
「誰にも言うなよ。だから、失敗してほしくないんだよ。で、瑞樹ってどうなの?」
父の作品だ。失敗なんてしてほしくない。演技に問題があっては困るので探りを入れると、士綺はしばらく考えこみ、そしてニコッと笑った。
「演技の心配はしなくていいと思うよ。本人はまぁ、猫かぶりだけど、仕事への姿勢は真面目だし、西脇炯の大ファンだから蕗央も失敗しないように気合入れるんじゃないかな」
「失敗しない?」
「うん。仕事の面では信頼していいよ。あ、でもプライベートで安易に話しかけない方がいいよ、統馬先輩」
「俺?」
「そう。気を付けてね、統馬先輩。妬まれてるから」
笑って忠告してくる士綺に2人は顔を見合わせた。
会ってもいない人物から何故妬まれているのだろう。
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