芸能科のスリートップ

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芸能科のスリートップ

 その後すぐ3限目のチャイムが鳴り、慌てて化学実験室へ向かっていった銀たちと別れ、士綺は芸能科の教室へ戻ってきた。  扉を開くと、数人の生徒たちに囲まれて中央の席に座っていた人物が振り返り、可愛らしい笑顔で手を振る。 「あっ、しーちゃん、おかえり♪」  性別のわりに高めの声。赤いヘアピンと中性的な顔立ちがその猫かぶりな言動に一切違和感を抱かせない。  ティーンズ雑誌の専属モデルであり、10代女子が選ぶ可愛いと思う男子モデル1位を3年間守り続けている、通称ずるかわ王子。  それが瑞樹 蕗央である。  士綺も微笑して蕗央に近づき、開口一番に祝いの言葉を告げる。 「ルチカ、映画の主演おめでとう」 「ほえ?なんで知ってんの?」 「愛し君へ、主演だってさっき聞いたんだよ」 「それって岡安銀から聞いたのか?それとも岡安統馬?」  そう言って蕗央の隣にいた人物が話に割り込んできた。  彼の名は雨宮 倖也(あまみや ゆきや)。  赤茶のベリーショート、筋肉質な体躯と黒い切れ長の目のワイルド系イケメンモデル。17歳とは思えない色気で中高生のみならず、20代女子からの人気も高く、抱かれたい男ランキングでも常に上位にランクインしている。  その色気に引き寄せられてきた女子生徒や女性アイドルから言い寄られ、浮名を流すこと数多。  問題はその誰にも真剣ではないこと。見た目通り、軽い人物なのだ。  そんな倖也の問いに士綺はその真意に気付きつつ、素直に答える。 「シロ先輩の方だよ。俺、シロ先輩みたいなカワイイ人が好きだから♪統馬先輩はシュミじゃないからね」 「お前のシュミは聞いてねぇから。さっきってついさっき?」 「うん。シロ先輩と統馬先輩が移動教室してるとこに居合わせてね。でもなんで2人から聞いたってわかったの?」 「交友関係は広いからな。いろんな情報も使って調べたってわけ」  幼い頃から芸能界にいる倖也は士綺や蕗央よりも知り合いが多い。  興味があって2人の素性を調べたのだろう。特に統馬の方を。 「あ、そうだ。ルチカ、それでルチカのこと聞かれたんでありのまま答えておいたからね」 「えぇ?悪口じゃないよね~?」 「褒めたとこもあるよぉ。あと、忠告もしといたよ。妬まれてるから気を付けてねって」 「なんかそれじゃあ、ボクが悪い奴みたいなんだけどぉ?」  唇をすぼめて可愛くすねる蕗央。士綺はごめんねとクスクス笑って蕗央の右隣の席に着いた。 「だって気にくわないんだもん。こればっかりは仕方ないじゃん」 「あー岡安統馬が美人だから対抗意識?」  倖也の指摘に蕗央は目を見開き、頬を膨らませてプイっとそっぽを向いた。  わかってるくせに意地悪だなと士綺は呆れる。  倖也が統馬に興味を持つから気にくわないのだ、蕗央は。  さすがに蕗央が可哀想で士綺が苦言を呈する。 「倖也ってホントひどい奴だよね」 「そう?あー・・・授業めんどくさいなぁ。夜も仕事だし、保健室でサボろっかなぁ」  背伸びして堂々とそう言い放つサボり常習犯・倖也。  そういえば今から数学なのだが、予鈴が鳴ったのにまだ先生は来ない。  なにかあったのかなと心配する士綺たちの一方、教室から抜け出すなら今のうちだと倖也は立ち上がると、士綺が来た扉から出ていこうとした。  が、その先には人がいて、彼を見た瞬間に倖也のみならず、士綺や蕗央、他の生徒たちも蒼白する。  そこにいたのは芸能科2年のクラス担任であり、先生の中で最も恐れられている人物。  姫路 朔夜(ひめじ さくや)だった。
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