あなたを好きになった理由

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あなたを好きになった理由

 翌日。 「シロ先輩、おはよ♪」  前代未聞の事態に銀は一瞬目を疑った。  登校時間終了10分前なのに、士綺が来たのだ。 「城崎、どうしたんだよ。遅刻魔のくせに・・・」 「えへへ、たまには先輩の為に頑張ろうかなって。だから、はい」  ニコニコしながら頭を下げる士綺。  何のことはわからずにキョトンとしていると、士綺が催促してきた。 「昨日より頑張ったから褒めて!頭よしよしして!」 「・・・・・・お前なぁ、ガキかよ」 「別にガキでいいもん。ね、先輩。して♪」  呆れる銀に人懐こい笑顔で更に催促する士綺。  まぁ、いつも遅刻ばかりするくせに珍しく時間内に来たのだ。  銀は仕方ないなと手を伸ばすと、士綺の頭を撫でた。 「ったく、しょうがないなぁ・・・。出来るなら明日からも遅刻すんなよ」 「明日からも頑張ったら褒めてくれる?」 「・・・・・・まぁ、それで改めるなら・・・してやらないことも・・・」 「やったぁ!!!!!じゃあ頑張る!」  期待の目で見られて銀は顔を背けてどもりながら頷く。  すると、言い終わる前に士綺が弾んだ声でそう宣言した。  再び士綺を見ると、心底嬉しそうな顔をしていてドキッとした。  見慣れた顔のはずなのに、また目を逸らしてしまう。 「そんなに、嬉しい・・・か?」 「もちろん!じゃあ仕事ない日は遅刻しないように学校来るからまた褒めてね!約束だよっ?」  小指を差し出す士綺。  頭を撫でるだけなのに、どうしてそんなに嬉しそうにするんだ。  恐る恐る士綺の方に視線を戻すと、士綺は目を輝かせてしてもらうのを待っていた。  それがまるでごちそうを目の前に待てをしている犬のようで、銀は思わずくすっと笑う。  するとそれを見た士綺は何故か更にパァッと目を輝かせて突然ギュッと抱きしめてきた。 「先輩笑った!やっぱりカワイイね♪」 「かわ・・・っ、可愛くなんてない!!!」 「カワイイよ!先輩は笑うととってもカワイイんだよ!だって俺、先輩の笑った顔で好きになったんだもん!」 「笑った、かお・・・?」  士綺の言葉に銀は疑問を感じた。  ここ1年ぐらい、人前で笑った記憶などないのに。なぜ士綺がそんな顔を知っているのだ。 「俺、お前の前でいつ、笑った・・・?」 「それは・・・・・・んー、ヒミツ♡」  士綺は何かを言いかけたが、何故か考え込み、そしていたずらっ子のような笑顔でそう言い放った。  秘密にされた銀は一瞬でムカつき、士綺の胸を押しながら怒鳴る。 「ならもう教室行け!」 「先輩すねちゃったの?機嫌なおしてよぉ。後でアメあげようか?」 「俺はガキじゃない!さっさと教室行けバカ!!」 「はぁい。じゃあまたね、シロ先輩♪」  銀の反応に満足したのか、士綺はクスクス笑うと手を離し、校舎の方へ走っていった。  途中何度が振り返って満面の笑顔で思い切り手を振りながら。  いつでも楽しそうに笑う士綺。  笑っていないことなんてないんじゃないだろうか。  それに、あの人懐こさだ。人からもきっと好かれている。  なのになんで彼は、自分を好きになったのだろう。  笑った顔で好きになったと言っていたけど、彼の見た自分はいったいどんな風に笑っていたのだろう。  
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