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「隙あり!」
えっ?と思った瞬間には私のお弁当箱からから揚げが奪われ、向かいの席でお弁当を食べていた同期の藤崎朋美の口の中へと消えて行く所だった。
「ひどっ、大切なメインを…」
「だってねぇ?千花ちゃん?凛々ちゃんが余りにもボーッとしてるからねえ?」
「そうそう、凛々ちゃん、さては何かあったなぁ?ズバリ、恋の病でしょう?」
隣に座っていた同じく同期の名波千花がそう言うけど、これが恋なのかな?昨日から時々ボーッとしてて、気付くと北川さんの事を考えていたりする。
「あ、良かった!川瀬さん、ここにいた!」
そう言って休憩室に入ってきたのは、まさにその北川さんだった。
「これ、ありがとう。助かった。」
返ってきた傘は、キチンと折り畳まれてカバーに収納されている。勿論、濡れた気配など無い。
「いえ。お役に立てて良かったです。」
「お礼にさ、何かご馳走させてよ。夜ご飯、食べに行かない?」
「あ、いいです。こんな安物の傘で、そんな事をしてもらう訳には行かないので。」
そう返事したら、北川さんは困ったような顔をして「そっか、うん…」とか小さく呟きながら休憩室から立ち去った。
「うわっ、秒殺。ないわー。」
「ないねー。」
朋美ちゃんと千花ちゃんが同時に駄目出しをしてきた。
「えっ、だって、本当に、あんな安い傘でご馳走とかさせられないでしょ?」
「あの北川さんだよ?そこは“いいんですかぁー?”とか語尾にハートマーク付けて、喜ぶところでしょ?」
「だよね。北川さん、断られるの慣れてないよ、きっと。落ち込んでるんじゃない?傘はさ、ただのきっかけだったと思うよ?」
本当にそうなのかな?
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