彼らも時として被害者

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彼らも時として被害者

「老人ホームで勤務していた元介護士が施設を利用していた高齢者を殺害」 1年に1度はこのニュースをテレビで見ているかもしれない。 しかし、報道機関では施設の管理体制や、虐待死させた介護士の話が中心で本質には迫れていない。 虐待死させた介護士は確かに犯罪者であり許されないことであるが、その一方で実は被害者になっている場合もある。 僕が勤務していた施設では夜勤中約40人の施設利用者を介護士2人で見る体制でした。 しかし、施設によっては更に過酷な夜勤体制を強いられ、20人程の施設利用者を1人で見ている施設も有ると聞きます。 認知症の方が1人居るだけで業務は回らず対応に追われます。 徘徊、帰宅願望、不穏、介護拒否など認知症の方の症状は様々ですが、たった1人、認知症の方が居るだけで介護士1人では業務が成立しなくなるのです。 この過酷な勤務体制は時として優しかった人間の人格までも変えてしまうのです。 僕もそうでした。 僕が勤務していた介護老人保健施設は「誰でもウェルカム」でしたので、他の施設で入居を断れるような認知症高齢者が入居してくる事も多々有るなかで、かなり精神的にきつく、プライベートでも常にイライラするような状況。 前節でも書きましたが、産まれたばかりの長女と高齢者が重なり、いらだちを隠せない日々。 終いには介護拒否が強い施設利用者にたいし反射的に叩いてしまった。 僕はこの時、介護の仕事はもう続けられないかもしれないと思いました。 それだけ過酷な労働状況の中で介護士は仕事をしています。 労働環境により人格までも変えられてしまった介護士。 犯罪は許されるものではありませんが、犯罪を起こしてしまうほど環境が整っていない施設があること。     そして、その労働環境が時に人格さえも変えてしまうことがあると皆さんに知っていただきたい。 彼らもまた、加害者であり被害者なのだと僕は思うのです。
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