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梅雨の真っ只中、太陽と月子は日曜日、松井家を訪問する。
今は、松井 月子となっている、月子の戸籍上の養父母に結婚のお許しをもらいに来たのだ。
玄関前で緊張する太陽を笑いながら見て、月子は躊躇なくインターホンを鳴らす。
「こんにちはぁ〜。おばあちゃん来たよ〜。」
自然に玄関を開ける。
夏休みにお邪魔するのと変わらない軽さ……。
袖を引っ張って上がるのを止める。
「挨拶!今日は挨拶だから…。頼むから合わせて?」
「あぁ…。そっか。ごめん…。」
一応の納得をし、二人で玄関に並び立つ。
「いらっしゃい。おばあちゃん待ってるよ?」
義美が顔を出し、その場で挨拶をする。
「お休みの日にお邪魔して……。失礼します。」
太陽に合わせて、月子もお辞儀する。
「ぷっ……。ごめん、なんかおかしいね?二人共、何度も来ているんだし、遠慮なく入って?おばあちゃん、本当に楽しみにしてたから…。」
「ですよね?じゃあ、お邪魔します。」
「おい!」
止めるのも聞かず、パタパタと中へ月子は入って行く。
止めようとした太陽の手が空を切る。
「お、お〜い……。はぁ…。すみません。自由で…。」
くすりと義美は笑い、こっそりと太陽の耳元で囁く。
「太陽くんも大変だったね。うちの女性陣の盛り上がりは凄かったけど…。
あんまり緊張しないで。太陽くんは昔から、もう家族だと思っているんだから。」
「はい、ありがとうございます。」
廊下を歩きながら話をする。
「女性陣の盛り上がりって?義美さんはいつ頃からご存知で?」
「ああ…太陽くんお母さんが来た辺り?だって、仕事から帰って来て、太陽くんのお母さんいるって…なんかあるなって思うでしょ?」
「確かに…。うちの母までご迷惑をお掛けして。」
「いやぁ?奥さんがね?異様にテンション上がってさ。なんかウキウキしてて楽しそうだったからいいよ。おばあちゃんも元気になるし…。
女って色恋に首突っ込むの好きなのかな?
ごめんね?迫力があって口は挟めなかった。」
謝られて義美の立場も想像する……有無を言わさない迫力。
何も言えないだろうなと思う。
太陽自身、その立場なら反対意見も言えはしまい。
「パワー…凄いですよね?」
ため息を吐いて太陽は言う。
「本当にね……。」
苦笑して義美が言うと、居間から賑やかな声が聞こえて来る。
開いている扉の所に座り、挨拶をする。
「こんにちは。お休みの日にお邪魔して……。」
お辞儀をする。
「いいのよ?そんな挨拶は。ほら、入ってお菓子摘みなさい?」
下げた頭の向こうからおばあさんの声がする。
「そうよ?もう親戚なんだしねぇ?」
聞き覚えのある声がする。
「そうだよ?親戚だよ。」
女性陣も同意の嵐……この声、この強引さ、この……。
怖々、顔を上げた。
「何でここにいる………。」
太陽の母親、山岡 志津子が堂々と座っていた。
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