古い記憶

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月子にはよく分かっていなかったが、新しい家での生活は嬉しい事が沢山だった。 お父さんは目が覚めるともう仕事でいない…が、兄がいた。 目の前でばくばく食べる姿は、月子の憧れだ。 兄は怒ることもなく、食事に付き合ってくれて、遊んでくれて、おいしいお菓子を持って来てくれたりする。 お兄ちゃん…と呼ぶように言われたけど、お父さん達が太陽、太陽くんと呼ぶので、いつのまにか、「たいちゃん」 になった。 夕方になるとそわそわした。 太陽は大きい針が5になると帰ってくる。 それを月子はいつもリビングで絵を描きながら見ていた。 玄関のドアが開く音がすると、廊下を走って行く。 太陽の顔が見える。 「たいちゃん、おかえり〜。」 「ただいま、月子。」 突進して抱き着くと、そのまま抱えてリビングに連れて行ってくれる。 大きな太陽からの眺めはよくて、お父さんでもない、大きい優しさ。 月子はお父さんもたいちゃんも大好きになった。 しばらくは家族四人、平凡で幸せな時間が流れた。 総てを憶えているわけではない。 所々の、断片的な記憶。 だけどどこを思い出しても、幸せな記憶だった。
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