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「…あれ、結局レナトもきたんだ」
「此処にくる前におれと話していただろう、アン。一応、今のテトナはおれのところに住んでいるのだからな。アイゼンに連れてきてもらった」
「……フン」
「気になってたんなら一緒についてくれば良かったんじゃない?下手に意地張ってるからだよね〜!」
「本当のことを言わないでくれ。胸に刺さる」
「あははー」
テトナとファールそっちのけで交わされる言葉の応酬に、考えていた思考が少しずつ落ち着いてくる
いまだクスクスと笑っているリニーを横目にテトナの横の席に座ったレナトは、アイゼンを背に立たせながらファールへ顔を向けた
ファールもレナトの名前に反応して僅かに目を見開いてからひとつ頷く
「この姿では初めまして、だ。隠れ里の長よ」
「…あなたは相変わらずですね」
「積もる話はあるだろうが、あらかた話は聞いていた。テトナをここに住まわせたいと」
「ええ」
「あっあの!私「別に今すぐに決める必要などないと思うんだが」…ふぇ?」
ふうむと首を傾げながら考えるレナトはテトナが来てからのことを思い出していた
基本的にあの家の持ち主は自分だが、なんとなく流れで居座っているものは何人もいる
だがテトナの底なしの明るさと働きっぷり、料理の腕は大変にいいものだった
テトナがいるからこそ今までしょっちゅう居なくなっていたアルカとアルナは万屋に居着くようになった
アイゼンも暇を見てはテトナを構い倒しているようだし……何より、アイゼンの作るスパイス料理よりも食べやすいのはいいことだと本気で思っている
あれは子供舌には刺激が強すぎるのだ
「おれの万屋の敷地にアンが抜け道をつくっただろう。あせらずとも、万屋とここを行き来すればいい。そうすれば今見えていない場所も見えてくるだろう。それに……」
「…それに?」
「ーーおれはスパイスの効いた料理よりもやさしい味付けの方が好きなんだ」
「……りょうり」
「喧嘩売っているのなら即決で買うが?生活能力皆無共が」
テトナが来る前までの料理は全てアイゼンが作っていた
アイゼンの料理はテトナが初めて会った時に振る舞ってくれた異国の料理
意外と辛くなく食べられた記憶があるが、確かにあれを毎日食べていると舌がおかしくなるかもしれない
異国なら気にしないのだろうが
「それにテトナは気が効いて、掃除上手で、とにかく明るい。おれだけじゃなくて双子も気に入っているんだ。いつまでもいて欲しいと思うぐらいにはな」
レナトがテトナの頭をぽんぽんと撫でる
子供の姿なのにまるで大人に撫でられているような気持ちとなる
そしてファールに向けた言葉のはずなのに自分に聞かせるような褒め言葉に、むず痒いような気持ちが浮かび上がった
つまり、ニヤニヤが止まらないのである
(私…居候であまり役に立てていないって思っていたけれど、もしかしてそんなことない…?私のやってること…褒めてくれた!嬉しい!!)
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