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がたがたと揺れている
小石や枝が落ちている舗装されていない道を馬車が進んでいた
車輪が小石を跳ねるたびに中から微かな悲鳴が聞こえる
馬が引いているのは木でできた客車で、見た目は走れるのかわからないほどにボロボロだが、後ろにある扉には硬い鉄製の鉄格子が嵌められていた
中には十人ほどの女子供が手と足に枷を嵌められて床に直接座っている
この馬車は、奴隷商の馬車であった
馬車の周りには護衛の姿はない
御者席には小太りな男が汗をかきながら馬に鞭を振るっている
護衛を買う金もないわけではない
護衛として雇った冒険者達はもうこの世にはいなかった
「グルアアァァ!!」
「ひっひぃぃ」
茂みの脇から五匹ほどの狼が出てくる
狼とはいえないのかもしれない
その体は狼のそれよりも大きく、筋肉質な腕と鋭い牙を持った人一人ぐらいはある体躯をしていた
ギロリと金色の目を向けられた男の口からひっと悲鳴が上がる
男はますます鞭を素早く振るうが馬にも疲労が見え、しかも怯えているのかだんだんとスピードが落ちてくるのが感じられていた
「くっ来るなぁあああ!」
「ガァウァァ!!」
狼が二匹がかりで馬車を倒す
引いていた馬も馬車に巻き込まれるように繋がれたロープに絡めとられた
ガシャンと何かが外れる音がする
はずみで鍵がかけられている鉄格子の金具が緩み扉が外れ、中から衝撃で奴隷達ががボロボロと落ちてきていた
狼達は落ちてくる奴隷を見て歓喜の雄叫びを上げ、何人かを襲いその腹を満たすべく食らいついた
「やめろぉ!それはおっ俺の商品だ!くそっ」
馬車の御者席から同様に振り落とされた男は狼達に言うも咀嚼する手を止めるはずもなく、悲鳴のような声は森に消えていった
(くそっくそっなんだって!あの冒険者共もすぐに死にやがってっ!)
今はもういない冒険者に悪態をつく男も、そんなことをしている暇がないと贅肉のついた体を起こす
しかしこのままであれば男は狼に食われてしまうのは明白だった
馬達もほとんどは逃げてしまったが一匹だけ馬車に手綱が引っかかって逃げられない馬がいるのを見て、希望が灯る
(あれに乗っていけば…!)
男は狼達に気取られないようにジリジリと馬に近づき、馬の手綱を外してすぐさま飛び乗った
馬も早く立ち去りたいのか男の体制が安定する前に駆け出す
男は慌てて首筋にしがみつき落ちなかった
後ろをちらりと見るとまだ咀嚼して、もしくは恐怖で動けない奴隷を仕留めて食らっているからかこちらを追いかけてくるものはいなかった
追いかけてこないのは男が美味しくなさそうだからではない
馬に乗って走る男よりも、残った森の中へと散り散りに逃げている奴隷を捕まえる方が遥かに確実だからだった
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