彼女と僕の約束 2

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彼女と僕の約束 2

 坂を上りきって、アパートの7階につく。自分の部屋の前で鞄の中身を確かめる。財布や携帯に紛れて、綺麗にラッピングされた小さな箱が見えた。4月生まれの彼女の誕生石であるダイヤモンドがシンプルにあしらわれたものだ。ハートのモチーフが入っていてかわいらしい彼女にはぴったりだろう。  けしてそこらの若い女がねだって、その後オークションに出すような安っぽい、どこにでもあるようなものではない。彼女のためだけの特注だ。 確認した後、鍵を開けると彼女は玄関で待ち伏せしていた。 「そうちゃんおかえりぃ、遅かったね」  遅い? そんなはずはない。廊下を通り抜けて、見えたリビングの時計は7時半を指している。まだそんな時間だったのに彼女は待っていたのだ。僕の頬をあたたかい感覚が包む。彼女は僕を見上げながら「冷たい」とこぼした。彼女を見下ろすと、小さな背を目一杯伸ばして、笑いかけている。彼女の白い手に自分の手を重ねると、 「ひゃあ! 冷たいサンドされた!」  と声を上げ、くしゃりと笑った。幼さが残る彼女の顔をずいぶん長い間見つめた。いや、見惚れていたのだと思う。彼女を見ていると、笑顔にはこんなに種類があったのか、と驚かされる。コロコロ変わる彼女の笑い顔は、見ているだけでこっちも楽しくなるような魔法がかかっているようだ。頬に温もりが戻ると、我に返り、だいぶ遅い「ただいま」を口にすることができた。
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