彼女と僕の約束

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彼女と僕の約束

「う……うん」  彼女の表情がグッとこわばって、小さく頷いた。ぎこちなく歩き始め、部屋の前まで行くと、細くて白い指を無機質に光るドアノブにかけた。横顔は真剣で、監視している僕のことは見えていないようにみえる。どちらからともなく吐いた息が、緊張を膨らませて部屋の空気を一杯にした。僕の部屋をそっと開けると、明るかった室内に、急に闇が現れた。その闇に彼女は恐る恐る手を入れた。部屋の闇と彼女の白い腕が溶けて境目がグレーに見える。そのままか細いその腕が闇に食いちぎられてしまいそうな錯覚を起こした。そうなったら、腕以外の彼女も、腕だけの彼女も、平等に愛そう。  しかし腕はすぐに無地のネイビーのブランケットを掴んだようで、何一つ欠けることなく、LEDの元に戻った。ドアを閉めたとき、彼女は安堵して息を吐いた。 「ちょっと貸して」  声を掛けると、行きとは別人のように、元気よく走って帰ってきた。ブランケットを受け取ると、外の空気より冷たく、ずっしりとして刺さるようだった。 「こたつでちょっとあっためてきて。あったかくなったらまた窓際においで。一緒にお話しよう」 「……うん!」  彼女はドアの方は全く見ようとせず、こたつへと向かった。自分も流星に間に合うよう、掃除を再開した。
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