彼女と僕の約束

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彼女と僕の約束

 ふたご座流星群に間に合うように、家に向かった。冬の空は空気が澄んでいて、星がとてもキレイに見えるんだよ、と彼女の得意げな顔が浮かぶ。一緒に見ようといった手前、開始予定時刻の8時には遅れるわけにいかなかった。 「そうちゃんと一緒にお願いゴトするんだ」  と無邪気に言った彼女。僕が遅れたら涙をいっぱいに溜めてふてくされるだろう。そんな姿も可愛いのだけど、何よりも大切な彼女には笑っていてほしい。隣で流星群が見れるなんて滅多にないことなんだから、今日はバイトをショートにして残業無しで帰ってきているのに、ちょっとしたものを買うのにてこずってしまった。いや、ここから走れば充分間に合う。ただベランダの掃除等出来ていないことが多いので、なるべく早く帰りたいのだ。  家に帰る途中のキツい坂を上っている時に、いつも楽しい想像をする。そうすれば坂を楽に上がれている「気」がするからだ。と言っても毎日彼女との妄想だが、今日はこの後のシミュレーションといこう。 ココアを彼女のお気に入りの猫のマグカップに入れてベランダに出ると、彼女は憂いを帯びた表情で空を見上げている。僕もその隣で星を眺める。今日会ったことをポツポツ話していると、流れ星が現れ、会話をいったん止める。心の中で願い事を3回唱える。お互いがお互いを想いあった願い事をして胸に秘めているつもりが、僕は自然と彼女への想いを口にしてしまう。驚く彼女に、さっき買ってきた7号の指輪を持ってくる。その指輪は彼女の薬指にピッタリと合うサイズ。頬を染めた彼女の顔が月に照らされキラキラと輝く。クリスマス前にロマンチックに告白して、星が流れ、月が見守る中、僕らは婚約する。  完璧だ。彼女から一緒に流星が見たいと誘われた時から、このシチュエーションはプロポーズにふさわしいと考えていた。僕は今日に賭けているのだ。
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