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雪
気が付くと、暗い部屋の中にいた。その中には何人かが何かの前に集まっている。ここからの位置ではよく見えない。もっと前に行こうと歩き出すと、場面が変わり、ベッドが現れ、自分が眠っていた。
そこに誰かが立っていた。自分に似ている後姿。
誰なのか顔を見ようともっと近づき手を伸ばすと、その人物は突如バラバラになり、あたりは一瞬にして血の海と化した。
生暖かい血を全身にかぶり、そんな状況にもかかわらず、無感動で立っている自分がいた――
「はあ、はあ、はあ――」
レイラは荒い息継ぎをしながらベッドから跳ね起きた。
殺風景な暗い部屋。枕もとの電子時計が朝の4時をさしている。ここが自分の部屋だと分かると、安堵のため息が出た。
今はもう12月の終わりだというのに、全身汗でびっしょりとしていた。
「また、あの夢だ・・・」
この間、自分の記憶らしきものをわずかだが思い出してから、レイラは毎日悪夢を見るようになった。全身を真っ赤に濡れながら喜んでいる自分。自分のはずなのに、自分ではない気がした。
「オレはただ、記憶が戻ればいいだけなのに・・・」
レイラは5年前より昔の記憶がなかった。気が付いたときは、病院のベッドの上だった。それが今のレイラの始まりの記憶。
医者からは交通事故に遭い、頭部を強く打ったらしく記憶喪失だといわれ、家族が死んだことも告げられた。そのときはなぜか、何も思い出せなくてもいいと思っていた。
記憶がない今、自分にとって家族が、ただの他人にしか思えなくなってしまっていた。
それだけならまだしも、医者に言われるまで、自分の名前が『葉月レイラ』だということが分からなかった。
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