第1章 はじまりの時 / 咳

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こんなもので分かるとも思えないが、病院からの帰り道、書店に寄って鉱物図鑑を買ってきた。 いくつものページを繰りながら、自分が見たものに似た写真を探す。 何度も見返して、似たもののページを読みあさった。 「けど、これ意味あるのか? 体から出てきたもんだぞ」 我に返ってベッドに鉱物図鑑を放り出し、寝転んだ。 「何やってんだか」 大きく伸びをして起き上がり、キッチンに向かう。 僕はこの部屋で一人暮らしをしている。 父と母は昨年事故で亡くなった。 兄弟はいない。 こんな変な症状を相談する相手もいないが、誰かに心配をかけなくて済むことは、ちょっとほっとしている。 帰ってからずっと鉱物図鑑を読みあさっていたので、まだ食事もしていなかった。 冷蔵庫から、さっきコンビニで買ってきた弁当を出し、電子レンジに入れた。 「しばらくしたら病院から連絡がくるだろう」 電子レンジの中で、ゆっくり回転する弁当を見ながらつぶやいた。 一週間。 少なくても、それくらいはかかるだろう。
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