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「……何やってんだ? 俺……」
燻り始めた恐怖に打ち勝つため、霖之助は小さく呟いた。
――と。
「……な、何か、聞こえる?」
足が縫い付けられたように動かない。
目だけで音が聞こえた方向を探す。
気のせいかと思った。思いたかった。
が、音は確かに聞こえていた。
それが、聞き慣れたものだから間違うはずがない。
「ピアノの音……」
目は、二階の角の教室を捉えた。
灯りは点いていない。しかし、音は確かにそこから聞こえている。
「これ、子犬のワルツ……」
発表会のために、練習していたことを思い出した。でも、結局自分では納得できないままのできだった。
そういえば、これを完璧に弾いていた子がいた。いつも一緒の発表会に出ていた。
記憶が蘇る。
が、最後の発表会にはいなかった――
(あの子の音色みたいだ)
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