言霊

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「おねえさん!」  その声にはっとした。  見たことのある男の姿。  満面の笑みで手を振る姿に思い出す。  チャラ男・・・・・・ 「やっぱり!」  数日前、会ったことをすっかり忘れていた。 「露骨に嫌な顔しないでよ!」  私は営業スマイルに切り替えると軽くお辞儀をし、来た道を引き返そうとした。 「ちょっと待って!」  引っ張られた手は、思った以上に力強く、私はぐらついた。  自分の眉間にシワが寄ったのが分かった。 「あ、ごめん!」  慌てて手を離してくれた男の顔を睨みつける。 「ごめんなさい!」  目の前で手を合わせ、気まずそうな顔で私を見返した。  表情豊かな子・・・・・・ 「えっと・・・・・・また会えて嬉しいです! てか、会いたかったです! 今日のこの日を、このチャンスを逃したくありません! 一緒にお茶してください! お願いします!」  長身・茶髪・ロン毛・短パン。  いかにもサーファーの風貌は、ただでさえ目立つのに、後半部分の力がこもった男の声に、通行人も振り返って見ていた。  それでも、腰を九十度に曲げ、手を差し出し握手を求める姿勢を崩さない。  私は慌てて、男の肩をトントンと叩くと、顔を上げた男に透かさず指を立て「しーっ、分かった」と囁いた。  ぱぁっと明るくなった男の顔は「ありがとう!」と声を張り上げそうになったのだろう。 「あっ!」と発したと同時に、息を大きく飲み込み、両手で口を押さえ「しーっ!」と私を真似、口元で指を立てた。 「こっち、こっち」  小声でおいでおいでをする仕草と私を招くその笑顔は、少年のようで初対面の印象通り、後輩の間嶋君を思い出す。
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