誕生日

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 思春期にもなると友達の前では恥ずかしく、上手く躱す術を覚えていく私に対し、叔母さんのスキンシップは加速していった。  そして、学童保育での様々な催しで、この目の前の先生にも何度もハグされた。  初めて先生に会ったのは、小学生一年生の夏のキャンプだった。  ギター片手に現れた。  若くて元気で歌える先生は、瞬く間に子供達に囲まれて人気者になったけど、みんなの輪から離れて、ギターを弾いては遠くを眺める先生の姿に私は惹かれた。  その音はとても静かで、川のせせらぎと、森林の香りに溶け込んで、日常の喧噪から離れた光景は、子供ながらにドキドキした。  久々の先生の腕の中は甘い香りがした。叔母さん好みの柔軟剤の香り。  思わず、ふふっ。と笑いそうになった。  それに気付いたのか、気付かないのか、私から体を離すと「元気でしたか?」と聞いてきたので、顔がほころんだ。 「くみちゃん、今日は一段ときれいね。調子も良さそうじゃない」  叔母さんとは仮病を使った日以来だった。  声が全くでなくなった翌日、叔母さんに言われた通り耳鼻科を受診したけど、特に喉の炎症はなく、血液検査にも異常は見られなかった。  最終的には心因性のものと診断され、心療内科の受診を勧められた。  強い精神的なストレスが原因となって、声が急に出なくなってしまうケースがあるという話しだった。
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