46人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
言霊
水平線に沈む太陽が見たい。
十月、夕暮れ時の海は寒いと予想し、厚手の上着とブランケットを車に積む。
コーヒーも準備していこうかと迷ったが、缶コーヒーでいいか。と思い直し、車を飛ばして一時間。
昨日の天気とは打って変わり、今日は朝から太陽が燦々と輝いていた。
昼間の気温は二十度を超えているので、車内に荷物を残したまま、私は身軽で海辺を少し歩くことにした。
駐車場の横には小さな水族館が併設され、園児が並んで手を繋ぎ行進していた。
もう帰る時間かな。
列を乱すやんちゃ坊主。
泣いている子をなだめるおませな女の子。
先生から離れない甘えん坊。
子供は無条件で可愛い。
思わず微笑んでしまう。
一人の園児と目が合い「こんにちは」と声を掛けられる。
当惑したものの「こんにちは」と私は渾身の力を振り絞って応えた。
「声、痛い痛い?」
心配そうに見上げてくる。
「大丈夫」
やっぱりその声は痛々しい。
「バイバイ」
純粋な瞳に救われ、清々しい気持ちで自動販売機コーナーに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!