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誕生日
訪れたホテルに到着して化粧室へ直行した。
三十五回目の誕生日は特別なものになるようにと、最上階のレストランを予約していると連絡を受け、何を着て行こうかと悩んだ末、一枚でさっと着こなせる、シースルーの七分丈袖のワンピースを選んだ。
いつも仕事できっちりまとめているヘアスタイルは、ルーズな三つ編みのアップスタイルに仕上げた。
パールのヘアアクセサリーの位置を確認し、最後に全身を鏡に映した。
久々のヒール靴に、後ろ姿もチェックしたくなり、アシンメトリーのスカート丈がふわっと揺れると、自然と表情が和らいだ。
レストランは二層吹き抜けのパノラマウィンドウで、テーブル上のキャンドルが夜景を際立たせていた。
街を一望できる席に案内されると、そこには叔母さんと一緒に座る男性の姿が見えた。
オールバッグにまとめられた白髪は、顎髭とバランスが保たれ、目尻に刻まれたシワは縁なしの丸めがねで、紳士的な雰囲気は以前にも増していた。
「先生。ご無沙汰しております」
思ったより声は出た。
先生は目を細めると、こちらに歩みながら両腕を広げた。それは自然な行為で、また子供の頃を思い出させた。
叔母さんは必ずハグをする。
大人になった今でも継続している。
それは子供の頃からの習慣だった。
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