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二つ目の名前2
「おい塩屋。この前の企画書は出来たか」
目の前で椅子にだらしなく座り、携帯をいじりながらこちらに目線の一つもよこさない男。 古金達也は、私からすれば会社の先輩にあたる人物だ。
書類仕事も早く、取引先への営業においても上司の評価が高い評価を受けている。
だが、私たち後輩や同期の社員からはその限りではない。
彼には裏の顔がある。
「……ふん。まぁ及第点だな。おつかれさん、もういいぞ」
私が手渡した企画書に黙って目を通していたかと思うと、おもむろに此方に左手を差し出す。
その意味を理解して企画書のデータが入っているUSBを渡せば、追い払うように手を動かされた。
釈然としない気持ちを押し込み、軽く礼をして自分のデスクに戻る。
「……相変わらず嫌な感じ。大丈夫? 気にしない方がいいよ」
「もう慣れたから。ありがとう」
同期である飛田瑞保が隣から小声でかけてくれた言葉に笑みを返せば、彼女は少し安心したような顔で自分の仕事に戻っていく。
なんとなく察した方もいるだろう。古金先輩は自分の仕事を後輩に回して、その手柄を自分のものする。最低な先輩なのである。
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