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二つ目の名前3
「今日も酷いよ! あの企画の相手は凄く細かいところまで気にする会社だから、企画書一つとっても気を使うのに! 明歩に任せてあの態度!」
「まぁ、仕方ないよ」
昼休みに会社の近くのカフェで声を荒げた瑞保に、私は苦笑するしかなかった。
自分以上に怒ってくれる彼女は、まだ会社で出会ってからの一年と少しの短い付き合いである。しかしお互いに誰より励まし合い助け合ってきた戦友だ。
下手すると学生時代の友人よりも仲が良いし、信頼がおけると思うほどだ。
彼女はいつになくお怒りのようで、食器のぶつかる音を立てるほどに荒々しい食事の仕方になってしまっている。
「黄金虫先輩にバチが当たればいいのに!」
「……黄金虫先輩?」
私は目の前のパスタを巻いていたフォークの動きを思わず止め、顔を上げた。
瑞保は自分のパスタを咀嚼しながら、不思議そうな表情を浮かべる。
ゴクリと口の中のものを飲み込むと、飲み物のグラスを手に取った。
「あれ、知らない? あの人同期の先輩達からそう呼ばれてるんだよ。黄金虫って」
瑞保の話によれば、黄金虫は成虫の時には植物の葉をレース状に食害し、幼虫の時には根を食害することから害虫とされているらしい。
先輩の手柄を横取りするところを、葉の良いとこ取りをしている成虫。後輩潰しのような仕事の押し付けや態度を、成長を止めるという意味で根を食害する幼虫。
そうやって当てはめて付けられたニックネームが黄金虫らしい。
「あと古金って苗字は読み方変えるとコガネ、とも読めるでしょ? 先輩達も上手いニックネーム付けるよねぇ」
成る程納得なニックネームに二人で顔を見合わせて笑った。
『バチが当たればいいのに』
ついさっき瑞保が溢したこの言葉に、私はデスクの引き出しの中にしまったあるモノを思い出しながら残りのパスタを食べきった。
ーーあれは早めに無かった事にしとかないとな……
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