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二つ目の名前4
数日後の朝、オフィスに設置されている掲示板に古金先輩への辞令が貼り出された。
私の作った企画書を使ってプレゼンをした先輩は、とんでもないミスをしたらしい。辞令に書かれた左遷という文字がそのミスの大きさを感じさせるようだった。
私達社員にその詳細までは知らされることはないだろうが、何はともあれ私はようやくあの先輩から解放されるのだと内心安堵していた。
「明歩、良かったね」
コソッと耳打ちしてきた瑞保も明るい表情で、周りの人たちも心なしか嬉しそうに見える。
私は大きく頷いて肯定を返し、自分のデスクについた。他の人たちも辞令が掲示されている場所からそれぞれのデスクへ収まっていく。
そんな中デスクの一番上の引き出しを開けた私は、一気に血の気が引いていくのが分かった。
ーーない!?
ガチャガチャと音を立てて引き出しの中の文房具を掻き分けてみるが、目当てのモノは一向に見つからない。
確かにこの引き出しの中に入れたはず。そして結局使う勇気が出ずにそのままだったはずだ。
どんなに考えても焦りが生まれるばかりで、冷や汗まで出てきた。
何も手につかない心境ではあるが、仕事をしないわけにはいかないので、とりあえずパソコンの電源を入れる。
結局仕事の合間にデスク周りを探したが、遂に見つからないまま終業時間を迎えることになってしまった。
「あぶちゃん! お疲れ様! お先に〜」
「あぶちゃん良かったね。あんまり遅くまで残らないようにしなよ」
「え? お、お疲れ様です」
落ち込んだ気持ちの中帰宅する先輩達にそんな言葉をかけられ、最初は誰に話しかけているのか分からなかった。
しかし二人目の先輩が私の肩を優しく叩いたことから、漸く自分に話しかけられたのだと理解し慌てて挨拶を返す。
そんな私の反応を見てか、先輩の一人が笑う。
「ごめんな。今日のお昼に勝手にニックネーム考えちゃったんだ。それであぶちゃん」
「いえ、ただ吃驚して! でもどうしてあぶちゃんなんですか?」
ただ単純に浮かび上がった疑問を口にすれば、そのニックネームを提案したのは瑞保だと言う。
本人に聞いてみたら?うちの会社のニックネームは虫関連ばっかだな〜、と先輩達は次々に会社を後にした。
その背中を見送る流れで目線を横の瑞保に向ければ、瑞保も此方を見ていて目線がかち合う。
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