2章:自分は何者か

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「おっなになに?新入りに訓練つけてるの?」 女の子は僕に気づくと楽しそうに走りながら近くに寄ってきた。 「おや?」 近くに来て僕の顔を見てわざとらしく驚いたあと、ジロジロと観察しだした。初対面にしては失礼だ。 しかも顔も近い。僕は引き気味に後ずさる。 「新人からかうのもその辺にしてくれないかな?」 スレンは困った僕を見かねて、止めに入った。それを受けて、女の子は一歩下がって僕と距離を置く。 「えへへ……ごめんね。私はイーリス。」 ペコーっとイーリスはお辞儀をする。 (いちいちオーバーリアクションだなぁ) 「僕は新人のウォーレン。えと……よろしく。」 「へぇ、ウォーレンっていうのね!こちらこそよろしく!」 イーリスは親しみやすい笑顔を僕に向けた。 「ところでイーリス、ここには用があって来たの?」 スレンは今の状況に慣れているのか、これ以上特に咎めることなくイーリスに質問をした。 「そう!もうすぐ姫が掃除屋に到着するんだよ!だから姫の好きなお菓子を用意しておかなくちゃって思って先に来たの。」 「言ってなかったけど、イーリスはこう見えて国の役人さんなんだよ。姫のお付きの人の一人。」 スレンが僕にもわかるように説明を付け足してくれた。が、まだわからない。姫がくるから、お菓子……? 「とにかく、姫の好きなお菓子を買わなきゃだから!!贔屓のお菓子屋に行こう!!」 僕はイーリスにぐいと腕を引っ張られ、問答無用で買い物へ連れて行かれた。 その速さは隊士にも劣らない。 「あっちょっと!!」 スレンも止めようとしてくれたが、間に合わなかった。 こうして無理やり外に連れ出されたわけだが……。 「やけに上機嫌だね。」 「あ、わかる?」 「ふんふんと軽く鼻歌を歌いながら歩いていれば誰だってわかるさ。」 今にも小躍りをするのでは無いかというくらい、彼女は上機嫌に見えた。 「だって記憶喪失なニューフェイスがいるって他の隊士から聞いて、運良く会えちゃったもんね!」 隊士がよその人にそんなこというはずがないし、イーリスは結構掃除屋に出入りしている事がその言葉から感じ取れた。 「それにね、私あなたを前から知っている気がするの」 「え?」 僕は考えた。この子は僕の過去と何か深い関わりがある人なのだろうか。 「それってどういう関係だったの?」 「昔の……恋人かな。」 やや照れ気味に答えるイーリス。 僕は呆然と立ち尽くしてしまった。恋人……?え?そんな人がいるとは予想外の展開なんだけど……。 「わっそんなにショックを受けたような顔しないでよ!!もちろんジョーダン!ジョーダンだから!」 「……記憶喪失の人に冗談は通じないから……。でも、本当に違うんだね?」 「もちろん!今日君に初めて会って、気に入ったから口説こうかな〜と」 何を言っているんだこの女は。 「あ、遊びなら他を当たって……。」 僕は振り返って掃除屋に帰ろうとした。完全にイーリスにからかわれている。 「別に今のは冗談ではないんだけど……。あっお菓子屋もう少しだから、お願い、帰らないで〜!」 僕の服の裾をイーリスが引っ張る。なんだ、もう少しだったのか。かれこれ話しながら歩く事30分経っていたから、これもからかわれているのかと思った…。
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