金魚すくい

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「だけど美波の家に持って帰ったって、何もないだろう?」 ベッドの上で私の髪を手で梳きながら和田さんが思い出したように言う。私は何のことか分からずに「何が?」と彼の顔を見上げた。 「金魚飼う装置。生き物を飼うってなんだかんだ大変だよ」 「金魚鉢なら、この前近所のホームセンターに可愛いのが売ってたから買いに行こうと思ってるよ」 ガラス製でまあるい形をしててね、窓際の棚に置くのにちょうどよさそうなの。嬉々とした私の説明も聞いてないかのように和田さんは「ほら」とベッドサイドに置かれた金魚の袋を指さした。 「口をぱくぱくしてるだろ。あれは酸欠のサインなんだ。金魚は酸素をたくさん必要とする魚だからなぁ……金魚鉢は酸素が足りなくなりがちだし、エアレーションもしにくい。水替えも大変だから、初心者にはあんまりおすすめしないよ」 「詳しいんだね」 「子どもの頃に飼ってたからね。それにアクアリウムは今も好きなんだ。家で飼ってるのは熱帯魚だから金魚とは共存できないけど」 そう、と目を閉じる。まぶたの裏で繰り返したシュミレーションでまあるい金魚鉢はすでに私の部屋の一部になっていたけれど、四角い水槽に上書きしてみる。うん、悪くない、と想像する。 「アクアリウム関係なら、あそこが品揃えいいよ」 和田さんは私の自宅から数駅先にあるショッピングモールを挙げた。目を閉じたまま、うん、と答える。彼が誰とそこに行ったのかはまぶたのずっと後ろに押し流して。
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