金魚すくい

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日曜日に、和田さんが言っていたショッピングモールへと出かけた。家の近くに金魚鉢を買いに行くか少し迷ったけれど、彼が教えてくれた方法で彼がくれた金魚を大切にしたいと思ったのだ。 日曜日だけあって、ショッピングモールは家族連れで賑わっていた。場違いだな、と思いながら普段はかぶらないキャップを目深にかぶる。 ペットショップコーナーは広い施設内の二階の奥まった場所に位置していた。ガラスケースの向こう側で、こちら側に精一杯の愛想を振りまく仔犬たちの姿に胸が少しだけ痛くなる。 アクアリウムコーナーは、と周りを見渡すと、通路の先に水槽が見えたので近づいていく。通路の突き当たりにの床には水色のコンテナケースが置かれていて「金魚すくい 1回200円」と書かれていた。 4歳くらいだろうか、走ってきた男の子が「ねぇパパ、金魚すくいしたい!」と親にねだった。 微笑ましい光景――だけど、私はその瞬間息ができなくなっていた。咄嗟に棚の影に隠れる。キャップを深くかぶっていてよかった、と思いながら、もう一度かぶり直す。 パパ、と呼ばれたのは和田さんだった。横には奥さんと思しき女性も連れ添っていた。買い物帰りなのか、買い物用カートに大きな袋が乗せられていた。 あの日のように腕まくりでもして、金魚すくいのスキルを披露するのかと思ったのに、和田さんは「駄目だよ」とその子に諭した。 不機嫌そうな声を出す男の子に同情しながら、私はほんの少しだけ嬉しかった。心の中でその子に話しかける。 「熱帯魚ちゃんと喧嘩しちゃうから、駄目なんだって。君の家では金魚は飼えないんだって」 だけど、和田さんがその子に続けた理由は、それとは違った。
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