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……長い、長い夢を見ていた気がした。
でも、それは砂漠の砂を救い上げては落ちていくようにはらはらと言葉にする前に手から落ちてしまった。
私は……
ん? 待って、ちょっと待て。
「ここはどこ?」
「あ、やっと起きた」
「え?」
見上げると夕焼けの教室に一人立っている友達の姿。
「有香!? どうして…… ってもしかして私寝てた?」
「そうそう、もうずっとね。ホームルーム終わっても起きないから死んだかと思ったよ」
どうやら私はやらかしてしまったようだ。 ……また。
「最近寝過ぎじゃないの~? お疲れですか? 梨波さんは昨夜は一体なにをしていたんですか~?」
そう、私は最近ずっと眠い。別に、夜遅くまでYouTubeを見ているわけでもないし、Twitterを眺めているわけでもない。それでも知らない間に寝ていて、さっきのようになにか覚えていない夢をみる。なんだか少し……不気味だ。
「やめてよ、別にそんなんじゃないって」
「またまた~」
それでも話を聞いてこようとする有香を放っておいて、校門までの道のりを急ぐ。私たちは別段部活をやっているわけではないから、すぐに帰らないと損をした気分になる。嫌々部活をしている子がいれば、それはちょっと申し訳ない気分になるけど。
「さっさと帰ろう。ごめんね、待たせちゃって」
下駄箱で靴を取り出して、校舎に背を向けたとき。
「ねえ君? それ、地毛じゃないよね? 校則違反なんだけど、守ってもらえるかなぁ。困るんだよね、君みたいな生徒がいると」
「あ……あの」
「先生、他の先生にはすでにもう何回も話したことなんですけど、梨波のこの髪は生まれつきなんです。幼稚園からの幼馴染が言うんですよ? それとも、梨波の幼稚園の頃の写真、証拠としてみます?」
「それはやめて」私は即答した。先生は気まずそうな顔をみせ、それからそそくさと退散していった。
「……ありがとう」
「気にしなくていいからね、あんたの事はあたしがわかってるから」
彼女には何度も助けてもらっているのだ。有香だけは、最初から私の生まれながらにしてのこの髪色を受け入れてくれた。だからこそ、大事な友達だ。
「でも、本当に嫌になっちゃう。知らない人はずっと私に目をつけるんだから」
「そうだよねぇ。現代医学でも解明されていないんだっけ? それって」
うん、と答えながらその問題の髪をいじる。
私の髪は茶髪なのだが、何故か生まれながらにして部分的に金髪も生えていた。病院に行っても「わからないですね」としか返されず、一度は染めることを考えたが、学生の私にとって毎回髪染めを買うのはさすがに高額過ぎな上、私には両親がいない。おじさんとおばさんに育てられているから金銭的にも迷惑はかけられない。
『あんたが一番大変な思いをしているのはわかってる。だから、その分友達のあたしが片棒担いだっていいわ』
昔、私はこの髪のせいでいじめにあっていた。そんなとき守ってくれた彼女がなんとなく信じられなくなり、どうして私に構うの、と聞いたときに帰ってきた言葉をふと思い出した。どうしよう、涙腺が刺激されてきた。
「……いつか、絶対になにかお礼するからね」
「いいよそんなの。新作ゲーム買ってくれればね」
涙が引っ込んだ。
「嘘嘘! 冗談に決まってるじゃん、そんな怖い顔しないでよ」
「もう! やめてよね」
有香はゲームオタクで、ゲームのことなんてからっきしの私からすれば、それはもうプロレベルにうまいと思う。以前、本人にそう言ったら「e-sport見てから出直してこい」と返されたが、私のゲームに関しての関心はまさかゲームの大会をそう呼んでいることすら知らず、初めてその言葉を聞いたとき、そもそもゲームとスポーツになんの関係があるのか、と聞いてしまった。彼女にそう質問した時に大恥をかいたのは消したいくらいに恥ずかしい記憶だ。
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