一日目

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──いつかゲーム買わなきゃな。ああ、バイトをみつけないと…… そんな決意を胸に家までの道を歩みだしたとき、ふと足元になにかが触れた気がして下を向くと、一冊の本が落ちていた。表紙は金色で、かなり豪華に見える。 「……?」 なにか、気になる。私は、この本を見たことがある? 記憶の片隅に置き去りにされている、なにか。それでもなにだかわからない。 「待って、これって…… 私?」 慌てて本を拾い、表紙をまじまじと見ると、確かに自分にそっくりでそれでいてどこか微妙な点で違うような少女の絵があった。 なんとなく怖いけど、中身を見て見るしかない。そう思ったのは偶然か。それとも必然だったのか。おそるおそる本を開いてみると、中には「大神ゼウスがカストルに送る、最後の奇跡」と書かれていた。逆に言えばそれしか書かれておらず、あとは見事なまでに白紙のようだった。 「……なんだ、拍子抜けしちゃったな」 いくら自分に似た表紙だからと言って、まさか都市伝説のように私の生い立ちから死に様までが書いてあるはずないとはわかっていた。いや、まあ少しは期待していたけど。でも。 「大神ゼウスとカストルって神話に出てくる、あの?」 カストルはふたご座の神話で有名な双子のうちの一人だけど、もう一人いるはず…… あれ、それは誰だっけ……? 気になる。どうしてもゆっくりとみてみたい。本の中身、そして何より自分に似た表紙に惹かれた。本の中身と自分に似た表紙は何の関係があるのか。でも誰のものなのかはわからない。もしかしたらふたご座流星群について調べようとした人が落としてしまって、この本を探しているのかもしれない。でも、白紙の状態で何を調べようというのか。 この本を拾ってから何分かは経っていたが、悩み、考え抜いた末、いけないことだとは思いつつもしかし好奇心には負けられなかった。それが人間という生き物だもんね。 「えーっと……ちょーっとだけ、お借りしますねー……?」 そう誰に言うでもなく、罪悪感から生まれた言葉を小さくつぶやき、こっそり持ち帰ろうとしたとき。 本が光りだした。 「うわああああ!? え、何々、ご、ごめんなさい! 本は元あったここに置いておくから! 怒らないで!? ね!?」 何を言っているのかもわからなかったけど、とにかく本が怒っているんだと思い、本を戻そうとするものの時すでに遅し。 彼女は悲鳴を残し、まるで本の中へと吸い込まれたかのように消えてしまった。
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