一日目

6/14
前へ
/17ページ
次へ
「うわ…… なにこの景色、とても綺麗……」 扉を開いてみてわかった。どうやら""お屋敷よりも"宮廷"と言った方がいいのかもしれない。 最初に目についた場所。そこに広がっていたのは星だった。 天井は窓張りになっていて、まるで万華鏡のように星が至るところ無数に見え、一つひとつがはっきりと見える。しかし空にはなぜか月が赤と白、二種類あった。この時点でここは地球じゃないと知り、絶望感が襲ってきたが、目の前の星を見ると不思議と懐かしさを感じ、落ち着くことができた。 次に見えたのは正面玄関。しっかりとした安定感のある木材作りの扉の上部はステンドグラスで構成されている。そのまま自分の手元を見ると、アンティーク調の柵が家の隅まで広がっている。右側へと視線をずらすと螺旋階段に繋がっている。どうやらここは三階らしく、最上階であり、屋敷全体を見渡せる絶好の場所らしい。 背後には自分が出てきた部屋以外にも扉がまだあった。きっと、他の人の寝室か何かだろう。 更に気づいたことがあった。どうやらリファータという少女は自分と似ているのは外見だけでなく、趣向も似ているようだった。梨波はアンティーク調の小物集めが趣味だ。彼女の部屋にはアンティーク調の家具が列を生している。星だって有香と見に行こうと約束をするほどには好きだ。梨波の住んでいた町は田舎ではなかったため、綺麗な星を見るのも一苦労だった。いつしか梨波の将来の夢は、星がよく見える場所にお屋敷を建てて小説家になることだった。 実際に今いるこの場所は地球ではないものの、梨波の願望全てを叶えた場所と言っても過言ではなかった。ところで―― 「どうかいたしましたか?」 「うぇ!?」 いつの間にかさっきの男性が隣に立っていた。気付かないほどこの屋敷に夢中になっていたのだ。 「ああ、別になんでも…… ただ、月が綺麗だなって」 そういうと彼は少し驚いた顔をしてから「確かに、今朝の月は綺麗ですね」といった。 「え?」 「? どうかいたしました?」 「あ、いや別になんでも……」 「そうですか。そろそろ朝食の時間ですから、お呼びに来た次第です」 思わず足を滑らせそうになった。こんなにも目立つ星空や月を前にして、朝? 「そ、そうなのね……」 それでは、と一礼してから去っていく男性を目で追う。食堂の場所を確かめるためだ。ついて行ったら怪しまれるかもしれない。 少し時間をおいて、さっきの男性が歩いて行った道順をたどりながら考えた。 朝なのに夜ってことは、ここには太陽の光が届かないの? でも月は出ているし…… もし、ここが仮にまだ地球だったとしても、朝でも太陽が出ない国なんてあった? 「うわっ」 階段を踏み外すところだった。 とにかく、地球でないことは確実だった。 まず第一に太陽が存在しないこと。第二に食事が違うことだ。 少なくとも地球では見たことのないものばかり並んでいた。それでも何故か食べたことのあるような懐かしい味がするのは何故なのか。 食卓にはリファータの親と思しき大人が二人並んで話しかけてくる。それにつじつまが合うように対応していると、話し方が変だと指摘された。 「ところでリファータ。お前はいつからそんな話し方になったんだ?」 「え? 普通に話してるんだけど……」 「まあいいじゃない。こっちの方が家族って感じがしていいわぁ」 どうやらリファータは丁寧語で話す子らしい。 食事を終えて、父親の方は仕事があると言い外へ、母親の方は今夜のパーティーのプランナーだと張り切り、大きな扉前の広間に使用人らしき人たちと共に向かった(後に知ったことだが、この広間はホールと呼ばれているらしい)。 残された梨波はもちろんこの家の構造がわかるわけでもないので、しばらく食卓に座っていたが、後片付けの邪魔だと気付き、とりあえず外へ出た。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加