一日目

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とりあえずこの状況をまとめようと思い立ち、パーティーの準備に燃える彼女らを眺めながら頭の中を整理し始めた。 まず、学校で寝ていて、有香と帰ろうとして髪の毛が原因で先生に止められた。振り切ってからはゲームの話をして、流星群の話をしてから有香と別れた。その後―― 「そうだ本だ!」 思わず叫んでしまい、母親に心配された。大丈夫、と言いかけて思いとどまった。この世界に来てしまった原因は本だ。こんなに立派なお屋敷なら、書斎があっても良いんじゃないか? 「ねえお母さん…… じゃなくてお母様…… えっと、書斎ってありましたよね?」 この家に住んでいる者として、この質問の仕方はどうなのか? それでも母親はいぶかしむことなく「あったわよ、一階の一番大きなお部屋よ」とだけ答えた。 それにありがとう、と返して一階を見回す。真後ろは食堂だ。部屋側から見て右側面にある。食堂以外にも扉はあったが、全てがほぼ等間隔に並んでいたことから、こちら側ではないと思った。反対側にも扉は沢山あったが、そこでもない気がした。部屋側には扉が三つほどあり、正直どれだかわらなかったが、なんとなく真ん中の気がした。実際に開けてみると、それはとても広い書斎だった。書斎というよりは書庫の方が合っているのかもしれない。どんなに本を読むのが早い人でも一週間でも読み切れなさそうな膨大な量だった。思わずそこにあった本を取り、本来の目的を忘れて読みふけりそうになったが、若干の違和感を感じた。その違和感が何だか分からなかったまま、そこで思い出した。 「なにか手掛かりになりそうなものを探さないと」 数時間後、彼女は気付いた。自分はずっと本来の目的を忘れていたことに。 「すっかり本を読みふけってしまった……」 どうしてこんなことになってしまったんだろう? 原因はこの書斎だった。覚えているだけの過去を思い出しても梨波の人生は「本」だった。それにはもちろん髪のせいで回りに溶け込めず、一人でいるしかなかったというのも原因の内だが、単に本が好きだった。本を読むと、例えフィクションだとわかっていても、世界には色々な人がいるのだということを学べたし、自分じゃない誰かに成り代われている気がした。 そもそも、魔女が使うかのような書斎から目当ての本を見つけるのは困難を極めていた。まず第一に、この世界に来たときに見ていた本の内容を全く覚えていない。しかしこの世界には魔法があるらしい。梨波はこの超常現象を魔法のせいだと思い、移動関連の魔法を漁っていたのだが、そもそも魔法について全く知識がなかった彼女が最初から高度な魔法を読み解くのは、幼稚園児が高校教材を使って勉強するようなものだ。そこで、魔法について書かれた本を見つけては読み、徐々に脱線していった、というわけだった。 「とりあえず魔法については理解したけど、本単体で発動する魔法なんてなかったなぁ……」 一度戻って今まで学んだことを整理すべく、書斎を出ようとしたとき。 「……?」 どこかで本が落ちた。色々と触ったせいで落ちてしまったのかもしれない。 「星座の本?」 落ちていたのは十二星座の伝説について書かれた本だった。 正直、星が好きな彼女は読まずともほとんどを知っている。 ――でも、この世界に来たのは落ちてた本を拾ったのが原因だし…… 一応、持っていくことにした。
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