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脇役
川島あやこは空気だった。
自ら手を挙げ発言する事は無く、とにかく大人しく、とにかく目立たないよう、そんな風にして学生時代を過ごした。
きっかけは中学の時の文化祭。毎年恒例のクラス対抗合唱コンクールでの事だった。担任の熱血教師は「金賞」の目標を掲げ、クラスの同級生達もそれに呼応する様に熱心に練習をした。
それはあやこも同じだった。ただ気持ちは同じでも、みんなと同じ様にはいかない。
ーーわたしは音痴だ。
家でひとり、練習するとズレているのが分かる。分かるけれど直せない。仕方がないから小声で歌う。
それでもクラスのみんなの歌声を聴くと、わたしもやらなきゃという気持ちにもなってしまう。
思い切ってあやこは大きな声で歌った。すると、一旦途切れた所で前に並んでいた子が振り返る。
「あやこちゃん、ちょっと場所変わって」
この言葉にどんな意味があったのか、あやこには分からない。ただ、意味もなくそんな事を言う訳もない。
頑張ろうという気持ちは萎み、あやこは声を出すのを辞めた。
帰り道、彼女たちは噂話に花を咲かせているのかもしれない。「あやこちゃんめっちゃ音ズレてる」「勘弁してほしい」そんな会話があやこの脳内をぐるぐると巡った。
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