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「恥ずかしがる事ないよ、裏筋の意味、知らないんだろ!」
「知らないわよ!知ってたらどうなのよ!」とちいちゃんは思わず向きになって赤面しながら圭太に言い寄る。
「いや、知ってたら流石に引くけどさあ、角谷の態度、見てたら分かったから、もう裏筋なんて言わないよ。」と圭太は言うと俎板に体を向け、包丁を手に取る。
「分かったって、何が分かったのよ!」とちいちゃんは亦、向きになると、何だか知らないけど自分がやらしい女子になった様な気がして顔を更に赤らめ、ご機嫌斜めになる。
圭太はそんなちいちゃんに可笑しみを感じつつ顔を向け、「いや、だから、これはかまととぶってる訳でもないなって分かったのさ。だから、もう安心したよ。さあ、そんな事より角谷、見ててよ。」と言うと俎板に顔を向け、切ろうとする。
「何が安心したよ!もー!良原君ったら一々引っ掛かる事ばかり言うから私、やらしいみたいじゃないの!」とちいちゃんは言いながらプンプンして来て到頭、顔を唐辛子みたいに真っ赤っかにする。
「ああ、ごめん、ごめん。」と圭太は謝りながら手を休めると、ちいちゃんに顔を向け、「角谷は決してやらしくないよ、やらしくな~い、やらしくない。さーてと、それはさて置き、角谷、僕のやること見てなきゃ駄目だよ!」と言って俎板に向き直り、「えーと裏筋に添って、じゃないわ、えーと、そうそう、繊維に添って切りましてーと。」と言って切り始める。その戯けた調子にちいちゃんは益々プンプンして来て出来れば、圭太を抓ってやりたいと、うずうずしていたが、圭太が一生懸命になって来たので取り敢えずアドバイスし出した。「なるべく薄くね。」
「分かってる、分かってる。」
「指に気を付けてね。」
「分かってる、分かってる。」
「頑張って!あー!」
「ああ、拙い、厚く切っちゃった。」
「良いから其の儘、切ってって。あー!」
「ああ、拙い、斜めに切っちゃった。」
「良いから良いから。其の儘、切ってって。」
「ああ、何だこれ、目に染みる。」
「我慢、我慢、後、もう一息だから。」
「えーと、最後は倒して爪で添える様にしましてーと。」
「そうそう。」
「とんとんとんと、はー、何とか終わった!」
「うわあ!良原君!初めてにしては上出来よ!」とちいちゃんは拍手しながら喜んだ。
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