圭太とちいちゃんの楽しい調理実習の巻

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が、圭太が其のリアクションに応えて包丁を俎板に置き、ちいちゃんと正対して右手を後頭部に持って行き、照れる時のポーズを取って、「いやあ、全然だよ。」と喜ぶと、ちいちゃんは拍手を止め、「良原君、包丁、置いちゃったわね!」と言うや、両手をすっと圭太の両頬の脇へ持って行き、「女の子に再三、恥ずかしい思いをさせた罰よ!」と言いながら圭太の両頬を摘まんで、きつく抓って引っ張った。 「いってえー!今度はダブルかよー!」と圭太は叫んで大袈裟に痛がって見せたが、勿論そんなに痛い訳では無く寧ろ嬉しい痛みなのであって、ちいちゃんを飽くまでも喜ばそうとパフォーマンスしているのである。ちいちゃんも、それを心得ていて抓る時は多少、怒っていても抓った後、圭太の痛がるパフォーマンスに応えて面白そうに、「アハハハ!」と笑い、圭太と喜びを分かち合うのである。謂わば少年少女のスキンシップである。  その後も圭太はちいちゃんにべったりくっ付いてコーチを受けながら、いそいそとキャベツや胡瓜やトマトを切って行き、ちいちゃんとそれらをお互いの皿に盛り合わせ、仕上げにドレッシングを掛け、出来上がったサラダを仲良く食べ合った訳だが、圭太はこの日を境にちいちゃんと益々親しみ戯れる様になって行ったかというと、そうでは無く、この日の様に親しみ戯れられなくなった。何故なら圭太はこの授業中に卑怯者に嫉妬され、この日の放課後に、「今度、角谷と仲良くしてる所を見つけたら皆で苛めてやるぞ!」と卑怯者と其の仲間の苛めっ子達に脅しを掛けられ、怖じ気づいてしまったからである。圭太は早熟とは言え、恋愛感情という程の強い感情はまだ無く、そもそも、ちいちゃんをものにしてやるぞ!なぞという其処までの気概が無かったのだから仕方がない。それより特筆すべきは一人の者に束になって掛かって来る卑怯者の文字通り卑怯な所である。こういう卑怯者は自分の卑怯さ加減に気づかないものだ。何故ならこういう事は自分以外の者も日常茶飯事に行っているからだ。ほら、クラスに一人や二人は皆から毎日、迫害されている者がいるものであろうが。その人間の暗い真実を圭太は卑怯者を始め苛めっ子達を眼前に一斑を以て全豹を卜すで早熟にも悟るのであった。
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