圭太とちいちゃんの楽しい調理実習の巻

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圭太とちいちゃんの楽しい調理実習の巻

 まず皆がサラダの材料の新玉葱の皮を剥く事になって圭太はやった事が無かったので、どうやってやるのか、ちいちゃんに聞いてみたくなった。けれども、いきなり女子の輪の中に入って、ちいちゃんに聞く事は流石に出来なかったから取り敢えず男子二人に聞こうとしたが、二人とも嫌いなので二人に教えを乞いたくないし、聞いても教えてくれないと思ったから仕方なく男子の輪の中で見様見真似で新玉葱の皮を剥く事になった。勿論、圭太はそうしている間も、ちいちゃんが気になっていたので、ちいちゃんの方をちらちら見ていた。  やがて皆が新玉葱の皮を剥き終わり洗い場で順々に新玉葱を始めサラダの材料となる野菜を洗う段になると男女の輪が解けたので圭太はこの時とばかり、ちいちゃんと話す機会を窺った。全く家庭科の調理実習程、生徒が喧々囂々と自由奔放に振る舞える授業は無いが、圭太は其の間隙を縫って、ちいちゃんが洗い終わった後、早速、ちいちゃんに近寄って行き、声を掛けた。「流石、女の子だけに慣れてる感じだね。」その語調も表情も至って明るい。圭太は可愛子ちゃんに話し掛ける時に限って自ずと照明が点いた様にパッと明るくなるのだ。それに応える様に、「そうよ、いつもやってるもん。」とちいちゃんは朗らかに言うや、莞爾と笑った。 「成程、やっぱりそうか。エプロン姿が様になってるもんな。」 「そ~お、似合ってる?」 「うん、似合ってるよ。」 「私、これ、自分で作ったのよ。」 「へえー、すごいね。」と圭太は然も感心して見せて、「ふーん」と言いながらエプロンの刺繍の方へ顔を近づけて行き、「わー、凄い刺繍だなあ。ちょっと僕、よく見てみたいからさあ、日が差してる窓際で見せてよ!」 「ええ、良いわよ。」  ちいちゃんが嬉しそうに同意すると二人は刺繍の糸が光で浮き立つ窓際へ行き話を続けた。 「うわー、色とりどりで綺麗だなあ。」  圭太がそう言って殊更に感心して見せると、ちいちゃんはクリーム系の色が黄金に輝くお気に入りの熊の刺繍の所を指差して、「かわいいでしょ。このクマさん。」と黒々とした瞳を輝かせて言った。  ここで圭太の悪戯心に俄然、火が付く。 「えっ、それクマさん?」
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