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ささやかな幸せ
「着きましたよ」
電車のドアが開く。
この車両、9000系は、僕との直通のために用意してもらったものだ。
先を歩く少女、相模原さんに続いてホームへ降りる。
「稲城?」
次の休日は一緒に遊園地に出かけたい。二人でそう話していた。
それが実現し、今日は朝から遊園地で遊んでいた。
疲れたので、どこかのんびりできるところに行こうと言う話になり、行き先は彼女に任せることにしたのだ。
「私のお気に入りの場所があるんです」
目を輝かせ、自信たっぷりに言う。
相模原さんの気に入っている場所。そこに連れて行ってもらえることが、まず何より嬉しかった。
駅舎を出ると、外では冷たい風が吹いていた。
新宿のような大都会とは違って、果てしない空が広がっている。
「すっかり冷えちゃってるね」
「そうですね、もう夕方ですから」
今は三月、まだまだ暖かくはならないようだ。
「こっちです」
坂を下ると、小さな公園に着いた。
遊具も何も無く、ただベンチがあるだけ。
「あそこに座るのが、好きなんです」
そう言いながら、腰掛ける。
「少し寂しいですが、素敵な場所なんですよ」
ちょうど線路が見える。緑の車両が下り線を走っていった。
「⋯⋯ぼーっと、ここから電車を眺めていると、幸せな気持ちになるんです。その、直通列車はほとんど私の方へ来ますから、頻繁に見るんです。だからその、何だか、嬉しいな、なんて⋯⋯」
「⋯⋯うん、そうだね」
少しくすぐったいような空気。
「え、えっと、その、こうして、のんびりするのもいいかなって。そ、そう思って」
互いの顔は見れないまま。だけど、きっと笑顔だ。
「なんだか時間の流れがゆっくりに感じるよ。肩の力が抜けるっていうか⋯⋯リラックス出来る。本当、素敵な場所だね」
「気に入ってもらえてよかったです」
彼女の表情は、とても幸せそうに見えた。
「また来よう。いつかまた、二人でここに来て、のんびりしようか」
「⋯⋯はい、そうしましょう!」
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