キスオニ

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キスオニ

 ハナとお別れしてから、だいぶ経った。しばらく足が遠のいていた公園に行き、いつも座っていたベンチに腰を掛けた。ここに座ると、ハナは僕の膝に乗りたがり、足を引っ掻いてきた。そんなくすぐったい痛みを思い出し、また悲しくなった。  こぼれる涙を拭い、顔を上げると、隣に見知らぬ女子高生が座っていた。僕とは違う学校。ロングの黒髪に整った顔立ち。少し垂れた目元からは妖艶さが漂っている。 「お気持ちお察しします」彼女は悲しげな表情を浮かべ、こちらに首を傾けた。なぜ彼女が僕の気持ちを察することができたのか、分からなかった。 「事故ですか?」  僕はうなずいた。彼女は足元を見ながらさらに続ける。 「黒の柴犬……」  そこまで分かるのか。ハナの散歩中に公園で会った人だろうか。いや、忘れるはずのない美貌だ。初対面のはずだが。 「どこかでお会いしましたっけ?」彼女を見た。 「いえ」 「では、なぜ?」 「あなたが悲しそうな顔をしていたから」  答えになっていなかった。なぜ飼っていた犬の種類や色まで言い当てることができたのか、問いただしたが、「秘密です」とはぐらかされてしまった。  僕は自分の名前と年齢を告げると、「じゃあ、私の方が1つ先輩だ」と笑った。雲一つない笑顔だった。
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