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 いくら五十日(ごとおび)といえど、片田舎の地方銀行は人もまばらだ。金曜日の午後2時20分。銀行のロビーの待ち席に浅く腰掛けながら、富江は今か今かと名前が呼ばれるのを待ち詫びていた。膝の上でぎっしりと組まれた手はしわにまみれており、じんわりと汗がにじんでいる。3時までに現金で500万円用意しないと大変なことになる。今までの努力が水泡に帰してしまう。富江は思いつめた表情で窓口を見つめていた。 「今沢様!今沢富江様!」  制服を着た近藤というテラーがそう声を張り上げる。富江はすっと席を立つと、足早に窓口へと向かう。しかしそこには今日引き出すはずの500万円どころか、1円たりとも用意されている形跡がない。富江が焦った表情で近藤の顔を見つめると、近藤は申し訳なさそうに口を開いた。 「今沢様。すみませんが1つ確認をさせていただきたく思います」 「何?急いでるの」  富江はきつめの口調でそう近藤を急かす。 「この500万円の用途、聞かせていただけますか?」 「そんなこと、教える必要なんてないじゃないの!」  近藤の問いに対し富江は怒りを露わにした。 「しかし、額が額ですから……」 「額が額だから何よ!私のお金だから私がどう使おうと勝手でしょ?」 「今沢様の財産を守るために、念のためお伺いしているんです」  近藤は笑顔を崩さぬまま、しかし真剣な眼差しでそう告げた。 「でも今日中に何とかしないと……」  富江はそのまっすぐな視線を目の前に黙り込んでしまった。 「とにかくここでは冷静にお話ができません。別室でいかがですか?」 「冷静に話してるわよ!3時までに500万用意しないとまずいことになるの。その現実があるから早くしてって言ってるんじゃない!」  再び富江は声を荒げた。 「まぁそう仰らず。当行としましては理由を訊かずにお渡しする訳には参りませんので。こちらで難しいようでしたら、別室で。それにまだ3時までに30分以上ありますし。相談に乗れることがありましたら乗りますので」  近藤はにっこりと笑ってそう告げる。富江は渋々頷き、応接室へと足を運んだ。
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