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「やっぱりそれって……」
近藤がその次の句を続けようとしたところ、
「失礼ですがそれ、詐欺じゃないですか?」
片岡が富江にはっきりと問いかけた。
「えっ?そんなはずないわよ」
富江はそう切り返す。
「でもこれ、典型的な振り込め詐欺の手口ですよ?」
「だったら逆に聞くけど、相手はどうして私の固定電話だけじゃなくて携帯の番号も知ってるの?私、限られた人にしか携帯の番号は教えてないわよ」
片岡の言葉に、富江は全く聞く耳を持つ気配がない。
「相手の声、本当に息子さんの声でしたか?たとえば風邪で声が変だとか、そういったことを言ってたりは……」
「してないわよ。私が息子の声を忘れるわけがないじゃないの!」
富江はしまいには片岡をそう怒鳴りつけた。近藤が閉口する中、片岡は穏やかな表情で再び口を開いた。
「かしこまりました。500万円、用意いたします」
「主任!」
近藤は片岡をそう諌めるが、片岡はそれを制止して話を続けた。
「ですが、ひとつ条件があります。先方からの電話をまず待ちましょう。そしてそのとき、先方に何個か質問を投げて下さい。できる限り、健二郎さん本人しか答えられない質問を。当行としては細心の注意を払いたいんです。それで問題がなければ、お金をお出し致します」
片岡の説得に負け、富江は無言で頷いた。
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