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2:40
富江のカバンの中から振動音が鳴る。
「もしもし?」
富江はそそくさと携帯電話を取り出し、電話に出た。
「もしもし。500万、なんとかなりそう?」
「うん……そうなんだけど、その前に何個か訊きたいことがあるの」
「何?ちょっと急いでるんだけど」
電話口からは焦りの声が聞こえてくる。
「あなた、小さな頃から私の手作りの料理、好きだったわよね」
「あぁ、美味かったよな。特に肉じゃが。さやいんげんが好きでねぇ」
「そうよね。それと、あなたの親友いたわよね?ほら、いつも一緒に遊びに来てたじゃない」
「聡くんのことか?僕の3つ隣の家だったよな?」
「うん、そうそう。あとさ、健二郎が高校生の時に死んじゃったあの犬」
「ジロベエのことか?あの、ソーセージが好きだった……」
「そうね。わかったわ。ごめんね色々訊いて。最近多いでしょ?振り込め詐欺。だから念のために訊いたのよ。お金、用意して野蒜高山駅まで急いで届けるから。もうちょっと待っててね」
「うん。待ってる」
通話を終えた富江は携帯電話をカバンの中にしまうと、
「お願いします」
ただ一言、片岡に告げた。
「本当に、よろしいんですね?」
片岡が念を押すと、富江は深く頷く。それを見た片岡は近藤に目配せをし、札束を5つ持って来させた。それらを紙袋に入れ、富江に手渡しす。
「色々と出過ぎた真似をすみません」
片岡は頭を下げる。
「いいのよ。私の心配をしてくれたんだもの。こっちこそきつい言い方をしてごめんなさいね」
富江はそう告げると、そそくさと応接室をあとにした。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
タクシーに乗り込む富江を見送りながら、近藤が不安げな表情で片岡に問いかける。近藤は富江の携帯の着信画面に『公衆電話』と表示されていたのをチラリと見てしまっていたのだ。
「相手の受け答えはどうもはっきりしていたみたいだからな」
釈然としない表情で片岡は答える。
「確かにそうですね。ただ、相手が事前に身辺調査をしていた、という可能性もあります」
「そこはよく分からない。ただ明確に言えることがある。私たちは十分な警告はした、ということだ」
片岡は近藤にそう告げると口を閉じて踵を返し、自席へと戻っていった。
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