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「俺と健二郎は双子。顔の輪郭も体格も似ている。当然声もな。健二郎の情報だって色々知ってる。だから騙せると思ったんだけどな」
純一郎はそう言って苦笑いを浮かべた。
「アンタ、まさか他にも余罪があるわけじゃないでしょうね?」
唇を震わせながら問いかける富江に、純一郎は唇を引きつらせながら答えた。
「勿論、あるに決まってるだろ。これで食ってるからな」
「ひどい……アンタ、人様のお金を何だと思ってるの!?」
富江の怒鳴り声が曇り空へと響き渡る。
「人様のお金を何だと思ってるって?人様の人格を何とも思ってないアンタには言われたくないね」
純一郎はせせら嗤った。
「アンタ、俺が好きだった食べ物、言えるか?」
富江は押し黙る。
「じゃあ仲の良かった友人は言えるか?」
富江は口を真一文字に閉じたままだ。
「じゃあ俺のクラスの授業参観を一度でも観に来たことあるか?毎回健二郎のクラスを観に行ってたよな?」
純一郎は懐からメビウスを1本取り出し、その先に火をつけた。腹の奥底から何かを絞り出すように煙を吐き出すと、再び言葉を続ける。
「俺は常に空気みたいな存在。優秀な健二郎は良い服を着て、塾に行かせてもらって、大学の学費まで出してもらって。出来の悪い俺は常に見向きもされなかった。いつも古い服を着て、いつもボロボロで短い鉛筆を使って、習い事なんて習わせてもらったことなんて一度もなかった。そもそもお前と一言も喋らずに1日を終えた日がどれだけあったことか。結局俺みたいな奴はこの家には必要なかったんだろ?だから俺は中学を出ると同時に家を出た。お前は親でありながら、親ではなかった」
純一郎は再び煙草をくわえ、大きな煙を宙に浮かべた。
「これはな、お前らに対する復讐なんだよ」
「復讐?」
富江が怪訝そうに訊き返すと、純一郎は見下すような目つきで頷いた。
「仮に俺がアンタから大金をせしめたとしたら、俺はお前に勝ったことになる。そして失敗して捕まったとしても……」
純一郎の声を遠くから聞こえるサイレンの音が遮った。2台のパトカーが純一郎のバイクを挟むようにして止まる。
「私が呼んだの」
富江は毅然とした態度でそう告げる。
「そうか……あの家を出て20年。今でも俺は排除の対象だってことか。まぁいい。警察に通報したこと、死ぬまで後悔するんだな」
純一郎がそう吐き捨てた瞬間ガチャリと無機質な音が響き、手錠の冷たい感触がその手首に伝わる。純一郎は2人の警察官に促されてパトカーへと乗り込んだ。
「全く。ホントにどうしようもないんだから」
遠ざかっていくパトカーの背中を睨みつけるようにしながら、そう小さく呟いた。
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